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愛のきずな
信徒の母、アーイシャ夫人は預言者の自分の住いにもどった。聖典クルアーンによって、無実が証明されるという輝かしい彼女の勝利であった。
再び信徒の母として栄光ある結婚生活にもどったのである。若い彼女は、夫に甘えて楽しく日々を送りながらこう言って他の夫人たちに自慢した。
「私は一番幸運な妻です。夫に一番愛されて!」
また、他の夫人たちに聞こえるところで、彼女は夫が述べたつぎの言葉を何度も繰り返して語った。「アーイシャよ、あなたの愛は私の心のなかに満ちている。堅い愛のきずなのように……」
また、アムル・イブン・アルアースが預言者に質問したときのことを話して聞かせるのであった。
「神(アッラー)の使徒よ、あなたの一番好きな人は誰ですか」と。
使徒は答えた。「アーイシャだ」
アムルは言った。「男の人を尋ねたのですが」
すると使徒は言った。「彼女の父親だ」……と。
使徒伝によると、ムハンマドがハイバルの戦いに遠征した際—これはヒジュラ暦7年のジュマーダールウーラー月(第5月)のことで、偽りの中傷事件から約一年後であったと言われている—預言者を象徴する最初の象徴旗をアーイシャの服から作ったと言われている。
イブン・サアドが伝えるところによると、「ハイバルの日までは軍旗はあったけれど、預言者の旗はなかった。預言者の象徴旗は『鷲(アルウカーブ)』と呼ばれて、アーイシャの服で作られた黒い旗であった。白い軍旗はアリー・イブン・アブーターリブに渡された」となっている。
信徒たちは、ムハンマドのアーイシャへの寵愛を知っていたので、使徒が彼女の家にいるときをねらって贈物を届けることが多かった。アーイシャの家で受けた贈物はすべての妻たちに平等に分け送られたが、彼女たちの嫉妬の感情は激しく、アブーバクルの娘のあまりの特権にも限度があるのではないかと話し合うのであった。
そこで彼女たちはファーティマ夫人に頼み、この件を注意してもらおうと意見がまとまった。そこで夫人たちの要望に答えてファーティマは父の家を訪れた。ちょうどアーイシャもそこに居合せた。
ファーティマは言った。
「お父さま、あなたの夫人たちが私を代表でここに送ったのです。彼女たちは、あなたがアブーバクルの娘ばかりを寵愛なさらず、みな平等になさるよう求めています」。
ムハンマドは娘にこう尋ねた。
「娘よ、父を愛しているか」
彼女は確信をこめてこう言った。
「もちろんです。お父さま」
すると彼は言った。
「ではあなたも彼女を好きになってほしい」
ファーティマは、夫人たちのもとに戻ってありのままを伝えた。
夫人たちはファーティマにもう一度説得してほしいと頼んだが、父親想いの彼女は、父の好まぬことを再度口にすることは気がすすまなかった。
そこで夫人たちは、彼女たちの中から、アーイシャのつぎに愛されている二人、ザイナブとウンムサラマのうちの一人を代表として選び、二度も、三度も夫人たちの訴えを伝えたのであるが、夫はこう言うのだった。
「アーイシャのことで私を責めないでほしい」
ムハンマドはアーイシャに関しては、他の夫人たちにもこのように答えて思いとどまらせるのだった。
また、アブーバクルが娘の行き過ぎを直そうと、きつく叱ったときにもそう言って彼女を守った。
アーイシャの嫉妬が異常に激しかったときにも、ムハンマドはこう言って彼女を許していた。
「困ったことだ、しかし、もし彼女に我慢できたのなら、彼女はそんなことはしなかったろう」
ムハンマドが彼女に、どうしてそんなに嫉妬するのかと聞くと、彼女は、
「私のような者が、あなたのような人に嫉妬を感じないでいられましょうか!」と答えた。
まったくアーイシャ夫人の言葉は真実であろう。
人間の本来の姿を無視して、彼女を天使のように高めようとする人こそ間違っているのである。
私の友人のザーヒヤ・カッドーラ女史が彼女の論文『アーイシャ・信徒の母』で述べているなかに、「彼女の嫉妬心は深く入りこんだものではなかった。宗教と、理性の法則が定める範囲にとどまったものであった。西洋のイスラーム史家が言っているように、事態は仲間割れの派閥をつくって争うほどではなかった。
おそらく我々が目にする夫人たちの間の美しい協調の姿や、それぞれが夫である神(アッラー)の使徒に貢献する姿でもって、これらの人々に返答できるだろう」とあるが、これはまったく驚くべき見解である。
マガーフィールの話に派閥ができていたことや、マーリヤに対して騒動を起したことなど、西洋人のつくり話だとでもいうのであろうか。また、神(アッラー)の使徒の婚礼の際に、花嫁に“遠ざけ”を願うよう忠告したことなど、これらは彼女の言う“宗教や理性の法則が定める範囲”にあるものなのであろうか?
また、使徒がマーリヤに会っていたとき、それは当然のことなのに、夫人たちは団結して使徒を怒らせたが、そんな姿に、夫人たちの間の美しい協調を認めるのであろうか。それはとんでもないことである。
アーイシャは性格の善い正しい女であった。ただ、ハゥワー(注17)(イブ)から受け継いだ女の感情に動かされると、彼女はそれに偽りもなく、偽善もなく応じてしまうのであった。
彼女の激しい嫉妬心は、夫への深い愛の表われであり、甘えであり、自分の得た愛情を守りぬきたい欲望の表われに過ぎなかった。
私たちが彼女のこの感情を否定して、それを夫人たちの間の美しい協調で語るならば、これこそ彼女を、また寛大なる我々の預言者をも傷つけることになるのではないか。
彼女のような人が彼のような人に嫉妬を感じないでいられるはずがないのである!
転載: 宗教法人日本ムスリム協会 「預言者の妻たち」
アーイシャ・アブドッラハマーン 著
徳増 輝子 訳
(2007年6月22日更新)
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