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人類の黎明期
東はイラクから西はモロッコ、南はスーダンにいたる広大なアラブ地域には人類の黎明期を飾る多くの遺跡がある。
アラブといえば、その大部分が乾燥砂漠地帯に属するため、まず砂漠や遊牧民を
思い出す人が多いに違いないが、一見不毛としか思えないような砂漠の大海原の
中に21世紀も間近い時代に住む我々の魂をゆさぶる遺跡が数多く残されてい
る。
カイロ郊外のギザのピラミッド群は現存する唯一の“古代社会の七不思議”だ
が、人類祖先の叡智と巨大なエネルギーに圧倒されるのは、何もピラミッドだけ
ではなく、広いアラブ世界のいたるところにある。
そしてまた、人類共通の財産ともいえるアラブの遺跡は、決して壮麗な建造物や
壁画、彫刻ばかりでない。多くの考古学者、言語学者の心血をそそぐ努力によっ
て古代文学が解読されていき、われわれの眼前に古代人の社会、生活、そして詩
歌さえ生き生きと再現してくれている。われわれは今でもシンドバッドやマル
コ・ポーロの感動を味わうことができるのである。
タッシリ・ナジェール
フランスの考古学者、アンリ・ロートの探検隊が、1956年から16ヶ月の踏
査の結果、その驚異的な壁画芸術を発表したタッシリ・ナジェールの遺跡は、ア
フリカ大陸の約4分の1を占める広大なサハラ砂漠を2千キロも南に下った砂漠
の奥にある。
長さが800キロ、幅50-60キロに広がるこの岩の大地の絶壁には、先史岩
壁画が一万点以上も描かれ、そこに展開されている野牛、キリン、それに馬と
いった動物の姿や、さらには狩猟し、踊り、戦い、祈る人間の様々な営みは、こ
の荒涼たるサハラが、かつて紀元前6000年頃から紀元前2、3世紀頃まで、
緑の草木に覆われ、大河が流れ、野性の動物が歩き回った楽園であったことをし
のばせる。つい一昔前まで、難行苦行だったこのタッシリ詣でも、今では“1週
間コース”の観光ツアーになっている。
筆者:阿部政雄
転載:「アラブ案内」グラフ社(1980年発行)
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