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中世アラブの芸術
中世アラブ文化はけんらんと輝いている。
偶像崇拝を禁じるイスラムの教えのため、絵画、彫刻には大きな発展はみられ
なかったが、これを補って余りある芸術的高さに発達したのは、エルサレムの岩
のドームをはじめとする宗教建築と、華麗な美しさをもつアラベスク模様という
装飾技術であった。幾何学模様、文字、草花の模様などイスラムの基本的装飾モ
チーフをふんだんに駆使したアラベスク模様は、交響楽にもたとえられる美しい
デザイン芸術の宝庫である。
また聖なるコーランを写すために書道(カリグラフィー)も発達し、最も代表
的な、楷書、行書にあたるクーフィー体、ナスキー体など美しい書体が創り出さ
れ、書物としてのコーランも、紙、書法、装飾、ミニアチュール、装丁など優れ
た芸術作品として造られてきた。
中世アラブの絵画は、このコーランを飾るミニアチュールから出発し、種々の
書物の挿絵に発展した。中でも、中世語り物文学の最高峰ともいうアル・ハリー
リーの「マカマート」を飾ったヤヒヤ・ワスティ(1237年バグダット生れ)
の挿絵は当時のアラブ社会を見事に活写した傑作である。
マカマートとは場所マカームの複数形で、処世術に長けた若い主人公が各地で
発揮する機知、武勇、雄弁の物語を、宗教的説教に用いられていたサジューとい
う韻を踏んだ散文詩で語る語り物文学である。
そのほか中世アラブの語り物文学の中で有名なのは、「英雄アンタラ物語」、
「アブゼイド・エル・ヒラール一代記」、それに日本でもなじみの深い「千夜一
夜物語」などである。
マカマート
13世紀、アル・ハリーリーの「マカマート」にイラクのヤヒヤ・ビン・ヤヒ
ヤ・ワスティの描いた挿絵(74、75、76、77など[*])は中世アラブ世
界を活写している。偶像崇拝を禁じるイスラム社会にあって、自分の絵に堂々署
名したのは彼だけという。「マカマート」は、風来坊があちこちを流浪しながら
展開するペーソスと滑稽味に富んだ物語を美しい散文詩で朗誦する、語り物文学
の一つである。ハリーリーの作風は、修辞法の巧みさ、アラビア語の美しさで知
られている。
筆者:阿部政雄
転載:「アラブ案内」グラフ社(1980年発行)
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