アラブ案内
 

【民衆の生活 1】

羊やらくだの毛でつくった遊牧民のテント。死海付近。
羊やらくだの毛でつくった遊牧民のテント。死海付近。
ヨルダンのワーディ・ラムで会った2人の遊牧民の長老。土地の民謡を歌ってくれた。
ヨルダンのワーディ・ラムで会った2人の遊牧民の長老。土地の民謡を歌ってくれた。

英語が上手な長老の息子の中学生。
英語が上手な長老の息子の中学生。
砂漠の糞ころがし。
砂漠の糞ころがし。
可憐な花をつけた草。
可憐な花をつけた草。

早朝から活気に溢れるアレッポの東洋一の羊市場。
早朝から活気に溢れるアレッポの東洋一の羊市場。
リビアの首都、トリポリのらくだ市場で見かけたトアレグ族。
リビアの首都、トリポリのらくだ市場で見かけたトアレグ族。

砂漠で道に迷いこんだらドライアップしてしまう。
砂漠で道に迷いこんだらドライアップしてしまう。


砂漠と遊牧民

 酷暑と乾燥の気候につつまれたアラブの自然は厳しい。砂漠で一歩道を誤れ ば、すぐドライアップしてしまう。しかし、年中雨が降らないわけでもない。1 月から3月までの雨期には、砂漠にも小さな草花が咲き、とかげ、スカラベ(糞 ころがし)といった小動物が動き回る。ここに降る雨は一時に土砂降りとなるた め、涸れ谷(ワーディ)用の橋がかかっている。ただし、地中海沿岸の気候は快 適なところが多く、レバノン、モロッコには雪が降ってスキーのできるところも ある。

 こうした厳しい砂漠地帯の中で、自然のリズムに沿って生活する遊牧民(ベド ウィン)は、質実剛健の精神に鍛えられている。アルジェリアのオアシスの町、 ガルダイアからハシメサウドの油田を取材するために車を雇い星影またたく早朝 から深夜まで砂漠を突っ走ったことがあった。途中何度も車の調子が悪くなって ハラハラしたが、予期せぬハプニングに動じないアルジェリアの運転手の辛抱強 さ、沈着ぶりに感心した。

 各国政府は、今気候に左右されやすい遊牧民の生活を半農民化する定着化政策 を進めており、その政策も少しずつ実りつつある。かつての輸送機関のらくだも ハイウェイを走る大型トラックに切り変ってきた。

 遊牧民と言えば、すぐ思い出されるのは、俗にアラブ・ホスピタリティと呼ば れる客人にたいする親切心、もてなしである。これは過酷な自然の中に住む彼ら は自分に近づいてくる人物が果して敵か味方かを峻別するのに厳しい目を光らせ る。しかし、いったん味方であるとか、好意を抱いている人物ということが判れ ば、最後の羊を屠ってさえも客をもてなす。謡曲「鉢の木」の佐野源左ェ門の面 影をしのばせる話も多い。

 「アラビアのローレンス」のロケ地となったヨルダンのワーディ・ラムで会っ たその近くの遊牧民の長老2人は、「日本からはるばるよく来られた」と、われ われ日本人を是非とも部族に迎え、お茶を進ぜたいといってくれたが、時間がな いと固辞するとその地方の民謡を歌ってくれた。利発そうな彼の息子の13、4 歳の少年から中学で学んでいるという流暢な英語で日本のことをあれこれと尋ね られた。

 バクダットの茶屋に雨宿りし、飲んだコーヒーの代金を払おうとしたら、隣り に座っていた土地のおやじさんが「あんたは日本人だろ。いわばイラクの客人 だ。その客人にコーヒー代を払わせるわけにはいかない」と代金を払ってくれ た。

 民謡と言えば、遊牧民は天性の詩人である。その話すアラビア語は音楽をもつ 美しい言葉だ。宝石をちりばめたような「千夜一夜」や遊牧民の恋愛詩はおよそ 砂漠と縁遠いようにみえるが、広漠たる砂漠の夜空に輝く星影を見つめるからこ そ、アラブ人の空想の翼は無限に広がるのだろう。


筆者:阿部政雄
転載:「アラブ案内」グラフ社(1980年発行)

(2007年8月7日更新)

                

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