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ムーサーはやがて怒りが静まると板碑を取り上げました―その怒りは、タウラーの板碑を投げ、兄のあごひげと頭をつかんで始まり、それから仔牛の像を粉々にして海に投げ捨て、最後に、その像を主と崇めた者たちを殺害するように、という裁きを下して終わったのでした―。
怒りが静まると彼は本来の大事に目を向け、自分がタウラーの板碑を投げ出したのを思い出しました。そこで板碑を拾いに戻り、自分の民にアッラーへの信仰を呼びかけて、タウラーを読み聞かせました。そして最初に彼は、タウラーの戒律をしっかりと強く受け止めるよう人々に命じました。すると驚いたことに、彼らはアッラーからの真実について彼と取引きしようとして言うのです。「その板碑を我々に読み聞かせなさい。命令や禁忌が容易なものであるならば、私たちは受け入れましょう。」と!!
そこでムーサーは、「いや、ここにあるがままを受け入れなさい。」と言いましたが、彼らはしつこく言い張ります。その時、至高なるアッラーは天使たちに命令なさり、山が、頭上の雲のように高く持ち上げられました。そして彼らはこう言われたのです。「これをあるがまま受け入れないならば、あの山はあなた方の上に落ちるでしょう。」
そこで彼らはそれを受け入れました。それから叩頭(サジダ)を命じられると叩頭し、頬を地面につけて、恐れて頭上の山を見上げるのでした。
ムーサーはイスラエルの民に、アッラーに御赦しを請い、悔悟するよう命じました。そして人々のうち最良の者たちを70人選び、彼らを連れてトゥール山へと向かいました。アッラーと会見し、彼らのために御赦しを請うためです。
ムーサーは選ばれた70人の者たちと一緒に、アッラーが指定なされた約束の場所へと出かけました。そしてムーサーが山に近付くと、至高なるアッラーは彼に語りかけられました。70人の者たちは、ムーサーが主に話しかけ、彼らのために謝罪をするのを聞いたのです。アッラーはそれを受け入れられ、彼らを赦されたので、ムーサーは人々のところへ戻りました。
ただしその時、選ばれた70人の者たちは、自分たちが今しがた聞いた奇跡だけでは信仰するにはまだ足らないとし、至高なるアッラーを自分たちの目で見ることを求めてこう言ったのです。「確かに私たちは聞きました。しかし私たちは見たいのです。ムーサーよ、わたしたちはアッラーをはっきり見るまでは、あなたを信じないであろう。(聖クルアーン・雌牛章55節より)」
するとアッラーは激しくお怒りになり、彼らは大地震に襲われ、落雷が彼らを捕らえて、みな死んでしまいました。ムーサーは選ばれた70人の者たちが起こしたことを悟り、悲しみでいっぱいになりました。そこで彼は、アッラーが彼らを御赦しになり、彼らに慈悲をおかけになるよう、そして、彼らのうちの愚かな者たちがなしたことによって、彼らをお咎めにならないように、と何度も祈りました。するとアッラーはムーサーにご満足なさり、彼の民を御赦しになって、彼らを生き返らせられたのです。そして生命の歴史の輝かしいその瞬間に、彼ら選ばれた者たちは、モハンマド・ビン・アブディッラーの到来の予言を聞いたのでした。
ムーサーは人々を連れて、イリヤーゥ(エルサレム)の町へと向かいました。当時、強大極まりない民がその町を支配しており、イリヤーゥの民は戦に備えて防御を固め、要塞を閉じていました。そこでムーサーは自分の民に、要塞に進入し、その中にいる者たちと戦って征服するように命じました。彼らは信者として、偶像崇拝者たちと戦う役目を担ったのです。しかしイスラエルの民はそれを拒み、こう言いました。
「本当にそこには巨大な民がいる。私たちは彼らがそこに留まる限り、決してそこには入れない。」
そこでムーサーは、「ただ(村の)正面から入ってかれらに当たりなさい。そうすればアッラーの御援助により、あなたたちは勝利するのです。」と言いましたが、彼らは同じことを繰り返し、こう言いました。
「あなたとあなたの主が、2人で行って戦え。わたしたちはここに座っている。」
そこでムーサーは彼らに懲罰が下るよう、アッラーに祈りました。するとアッラーは命令を下され、彼らが40年の間地上をさまよい、エルサレムには入れないようになさったのです。
ムーサーが人々にそこを立ち去るよう命じると、彼らは道を探し始め、やがてシナイへ行きました。そこは砂漠で、太陽から身を守ってくれる木々もなく、また食べ物も水もありませんでした。しかしアッラーの御慈悲が再びムーサーの民に与えられました。アッラーは彼らにマンナとサルワを送られ、雲の影を彼らに送られたのでした。マンナは甘いお菓子に近い味の食べ物で、果物の木から取れるものです。またアッラーは彼らにサルワを送られました。それは鳥の一種であり、ウズラのことだと言われています。
そして人々はのどの渇きがひどくなり―シナイは水のないところです―ムーサーが自分の杖で岩を打つと、そこから12の泉が湧き出ました。イスラエルの民は12の支族に分かれていたので、アッラーはすべての支族に水を送られたのです。こうして彼らはその背信行為にもかかわらず、40年の間食べものを与えられ、影に守られて過ごしました。
しかしアッラーのこのような恩恵にもかかわらず、イスラエルの民の病んだ心は静まることはありませんでした。彼らはこれらの食べ物には飽きたからと言って、玉葱やニンニク、そしてそら豆やレンズ豆といったものを欲しがりました。これらはエジプト古来の食べ物なのです。
イスラエルの民は預言者ムーサーに、これらの食べ物を大地から出してくださるよう、アッラーに祈ってくれと頼みました。そこでムーサーは、彼らが自らを罪に陥れ入れ、エジプトでの卑屈な日々を求めていることに気付かせようとしました。最も善い食べ物をいただきながら、何故最も低俗なものを代わりに求めるのか、と。
ムーサーはアッラーへの信仰を呼びかけて人々の間に留まりました。その期間中に、彼らのうちの高貴な家柄の者で、裕福なあるイスラエルの男が殺されました。誰が殺したのかわからず、男の親族の者たちは言い争いました。そしてどうしても犯人を見つけられず、主に助けを求めるべくムーサーを頼ってやって来ました。そこでムーサーが主に助けを求めると、人々に一頭の雌牛を屠らせるようにと主は命じられました。ここで彼らは、行き会った最初の雌牛を屠るべきだったのです。しかし彼らは、ムーサーが彼らを馬鹿にして笑いものにしているのだと決め付けました。
そこでムーサーは、自分が無知な者たちの仲間となり、彼らを馬鹿にすることのないよう、アッラーに御加護を願いました。それから人々に、雌牛を屠ることで問題が解決するのだということをわからせたのでした。
しかしながらイスラエルの民はやはりイスラエルの民であり、彼らを相手にするのは、慣れ親しんだ現世的な事柄であろうと、重要な教義についてであろうと、ただ困難で苦痛を伴うものでした。彼らは互いにこう言い合ったのです。
「それは普通の雌牛なのだろうか?私たちが知っているあの動物のような?それがどんなものか説明してもらうために、ムーサーに言って主に祈らせよう。」
そこでムーサーは主に祈り、その結果、彼らにとってはより困難なことになりました。雌牛は前よりもっと限定され、それは年老いてもなく、若くもなく、程よい中間の年頃だというのです。しかし彼らはなお、その雌牛はどんな色かと訊きました。そしてムーサーは主に尋ね、求められる雌牛の色を教えました。彼が言うに、それは黄金色で、見るものたちを喜ばせる鮮やかな色合いだということでした。ここで、雌牛は黄金色だと限定されたのです。
事は明白であるにもかかわらず、彼らはそれでも尚、強情とずるさへと戻るのでした。そのためアッラーは、彼らに対して事をより困難になさいました。彼らが預言者に事を困難にしたように。彼らはムーサーに、それがどんな牛かはっきりさせるために主に祈ってくれと求めました。単に雌牛では、自分たちにはどうも同じに思える、と。
そこでムーサーは彼らに、その雌牛は畑を耕したり水遣りに使われたりするものではなく、何の欠点もなくて、ぶちのない黄金一色の雌牛であると教えました。ここで彼らのしつこい騒ぎもようやく終わり、彼らはその特別な雌牛を探し始めました。そして、やがてある孤児の許にそれをようやく見つけたのですが、孤児は雌牛の重さと同量の金を代価として求めました。そこで彼らはそれを払い、それからその雌牛を屠ったのでした。
ムーサーが雌牛の一部をつかみ、それで殺された男を打つと、男は生き返って起き上がりました。そこでムーサーが彼を殺した者について尋ねると、男はその者について話し、再び死にました。イスラエルの民は、死人を生き返らせたこの奇跡をその目で目撃し、またその耳で犯人の名前を聞きました。これは彼らがアッラーを信じ、ムーサーの言うことを信じるための御徴しだったのですが、彼らの心は荒廃しており、ムーサーをひどく苦しめたのです。ムーサーはアッラーの啓示を彼らに伝えるにあたり、アッラーの道のために困難を耐え忍んだのでした。
長年卑しい時代を自由のない環境で過ごし、偶像崇拝の中で暮らした民のもとに、ムーサーは遣わされたのです。このようなさまざまな影響が、屈折し、弱く挫折した、何事にも正しさを持たない彼らの精神を作り上げたのでした。
ある日ムーサーはイスラエルの民の間に立ち、アッラーへの信仰を呼びかけ、真実について話していました。彼の話は深遠で明瞭で、素晴らしいものでした。彼が話し終わると、聴衆の一人がこう尋ねました。「地上にあなたより知識のある人はいるでしょうか、アッラーの預言者よ?」そこでムーサーはすぐに「いいえ。」と答えました。しかしアッラーは、彼が知識をアッラーに帰さなかった時、非難を表され、彼の許へ天使ジブリールを遣わされました。
天使ジブリールはこう言いました。「アッラーが御自身の御知識をどこへ置かれているかを、あなたは知っているのですか?」それを聞いてムーサーは、自分が早急すぎたことを悟りました。するとジブリールは再び彼にこう言ったのです。「2つの海が合わさるところにあるアッラーのしもべがおり、彼にはあなたよりも多くの知識があります。」
ムーサーはもっと多くの知識を得たいと切に願いました。そこで、そのしもべの許へはどうやって行けばよいのか尋ねました。するとジブリールは、2つの海の合わさるところ―つまり紅海の両側が出会う場所―へ旅するようムーサーに命じ、籠に魚を入れて持って行くよう言いました。
その場所に来るとこの魚は生き返って海へ飛び込み、そこで知識を持つそのしもべを見つけられると言うのです。そこでムーサーは、ユーシウ(ヨシュア)という従者を連れ、知識を求めて出かけました。ユーシウは、ムーサーとハールーンの後、イスラエルの民の上に立つ人物です。従者は籠に魚を入れて担ぎ、2人は知識を持つ善良なそのしもべを探して旅立ちました。
やがて2人は、海の近くの岩のところへたどり着きました。そこでムーサーは横になってうとうととまどろみましたが、従者は寝ないで起きていました。その時、魚が海の中へ飛び込んだのです!
『それは海に道をとって、すっと逃げ失せてしまった。』(聖クルアーン・洞窟章61節より)
魚が海へ飛び込んだのは、ムーサーが学ぶためにやって来たその知恵ある男に出会う場所を指定するため、アッラーがムーサーに教えられたサインだったのです。やがてムーサーは眠りから覚めて起き上がりましたが、魚が海に逃げ込んだことに気がつきませんでした。また従者の方も、魚の身に起きたいきさつをムーサーに話すことを忘れてしまいました。ムーサーは従者と一緒に、そのまま残りの昼夜を通して歩きました。二人とも魚のことはすっかり忘れていたのです。
それからムーサーは疲れを感じて朝食のことを思い出しました。
『かれ(ムーサー)は従者に言った。「わたしたちの朝食を出しなさい。わたしたちは、この旅で本当に疲れ果てた。」』(洞窟章62節より)
そこで従者は先の場所で魚が海に逃げ込んだ様子を思い出し、ムーサーにそのいきさつを告げました。そして、それはとても奇妙な出来事だったのに、悪魔が彼にそのいきさつを話すことを忘れさせたに違いないと言って、ムーサーに謝りました。「魚は海に道を取って逃げました。不思議なこともあるものです。」と。
それを聞いたムーサーは、魚が海へ逃げ込んだことを喜び、「それこそは、わたしたちが探し求めていたものだ。魚が逃げ込んだのは、我々が知識を持つ男に出会う場所を指し示すためなのです。」と言いました。
そこでムーサーと従者は、自分たちの足跡を辿って、2つの海が合わさる場所へと戻っていったのです。
・・・・続く。
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