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預言者スライマーンについての最も知られた物語は、恐らくサバアの女王バル
キースとの話でしょう。
ある日、スライマーンは軍備を整えるよう軍隊に命じました。それから軍の様子
を調べ、その状態を点検しに出かけました。しかし彼は、ヤツガシラ鳥がそこに
不在で、軍に参列していないのを発見して怒りました。そして来られなかった強
い理由がない限り、ヤツガシラ鳥に懲罰を加えるか、あるいは殺してしまおうと
決めました。
するとやがてヤツガシラ鳥がやって来て、スライマーンからそう離れていないと
ころに控えました。
『だが、長く待つまでもなく、それは(罷り出て)言った。「わたしは、あなた
のお気付きにならないことを知りました。わたしは確実な情報を、サバアから
持ってきました。」』(聖クルアーン・蟻章22節)
―私はある事柄についてあなたよりもよく知っています。私はヤマンのサバアの
町から確かな知らせを持ってきたのです―、ヤツガシラ鳥は言ったのでした。
『「・・・わたしは或る婦人が、―つまりバルキースのことです―人々を治めて
いるのを発見しました。―彼女はサバアの民を統治しています―彼女には凡ての
ものが授けられ、―アッラーは彼女に偉大な権力と王国を与えられ、彼女のため
に多くのものを供されました―また素晴らしい玉座がございます。―巨大な支配
の玉座で、そこには宝石が嵌め込まれています―わたしは彼女とその民が、
アッラーを差し置いて太陽を拝んでいるのを見届けました。―彼らは太陽を崇め
ていました―そして悪魔が、かれらに自分たちの行いを立派だと思い込ませ、
―つまり悪魔が彼らを誤った道へと迷わせ―正道から彼らを締め出しているの
で、正しく導かれておりません。」』(太字部分は聖クルアーン・蟻章23〜
24節)
スライマーンはヤツガシラ鳥の話に驚きました。当時女性が国を治めることは一
般的ではなかったからです。またすべてのものを持つ民が太陽を崇めていること
や、偉大なその女王の玉座の話にも彼は驚きました。しかし彼はヤツガシラ鳥の
言うことを鵜呑みにもせず、また虚偽だとも決め付けませんでした。
『(スライマーンは)言った。「私はあなたが、真実を語ったのか、また嘘つき
の徒なのか、直ぐにわかるであろう。」』(蟻章27節)
これは極めて公正で英知ある対応です。それからスライマーンは手紙をしたた
め、ヤツガシラ鳥に渡してこう言いました。
『「あなたはわたしのこの手紙を持って行って、それをかれらに落としなさい。
それから退いて、かれらが何と返事するかを見るがいい。」』(蟻章28節)
手紙を彼らの上に落とし、それに対する彼らの反応が聞こえるぐらいの距離のと
ころに待機せよ、ということなのです。
さて、サバアの女王の方は長老たちの中に座っていました。彼女は民の長老たち
や宰相たちに、スライマーンの手紙を読み聞かせていました。
『彼女(王)は言った。「長老たちよ、本当に尊い手紙がわたしに届けられまし
た。本当にそれはスライマーンから、慈悲あまねく慈愛深きアッラーの御名にお
いて(齎されたもの)。
それはこう言っている。私に対しあなたがたは高慢であってはなりません。
(真の教えに)服従して私のもとに来なさい。」』(蟻章29〜31節)
これが、王スライマーンがサバアの女王にあてた手紙の内容です。彼は手紙の中
で、服従して彼のもとに来るよう命じていました。
女王は長老たちにその手紙を見せました。彼女は賢明な女性であり、すべての事
柄について彼らと協議するのです。
『彼女は言った。「長老たちよ、この事に就いて私に意見を聞かせて下さい。あ
なたがたが証言するまでは、私は事を決定しないでいよう。」』(蟻章32節)
長老たちの反応は挑戦的でした。手紙の尊大な言葉が、彼らの慢心と、自分たち
こそは力ある民であるという気持ちを刺激したのです。自分たちに挑み、戦と征
服をちらつかせ、戦が起こる前に要求を入れさせようとする者がいることを彼ら
は悟ったのでした。
『彼らは言った。「わたしたちは力量もあり、烈々たる武勇も授かっています。
だが大命はあなたさまの手にあります。どう御命令なさるかよく御考え下さ
い。」』(蟻章33節)
長老たちは、「我々は戦う準備ができています。」と言いたいのです。
しかし女王は長老たちより遥かに知恵深いようでした。スライマーンの手紙は、
彼女を戦へと向わせるよりも、思慮を促したのでした。
女王はスライマーンの手紙について長い間考えました。
スライマーンの名前は彼女にとって未知のものであり、今まで聞いた事がありま
せん。それに彼の力についても彼女は全く知りません。もしかしたらスライマー
ンは、女王の王国に戦を仕掛け、打倒するほど強いかも知れないのです。
女王は周りを見回し、自分の民の発展ぶりと富について考えました。それらが戦
によって損なわれることを恐れ、彼女の知恵が軽率な判断を抑えました。
彼女は事を穏便に処し、スライマーンに贈り物をすることを決めました。もしか
すると彼はサバアの王国の富について聞きつけており、それに対して強欲なのか
もしれない、と思ったのです。
そこで彼女は、スライマーンと和平を結び、贈り物によって平安を手に入れた方
がいいと考えました。また贈り物をすることで、それを運ぶ使節団が彼の王国へ
入ることが可能となり、そこにあるものを見聞し、彼の民や軍隊についての情報
を持って帰ってくることが可能になると彼女は考えました。そしてその情報をも
とにして、彼女はスライマーンに対する自分の本当の立場を測り知る事ができる
のです。
女王は長老たちに、贈り物をすることによって王スライマーンの意図を知ろうと
思う、と話しました。こうして彼女は、長老たちに、暫定的に戦の考えを捨てる
ことを納得させました。帝王たちが町に入る時は町の情勢を転覆させ、長老たち
はその時誰よりも卑しめられるからです。
やがて女王バルキースの贈り物が、預言者であり王であるスライマーンの許に届
けられ、女王の使節団が贈り物を携えて到着したという知らせが齎されました。
スライマーンはそれを聞いてすぐに、女王が彼に対する自分の立場を決めるべ
く、彼の力を知るために使節団を送り込んだのだと悟りました。
そこでスライマーンは王国全土に呼びかけて軍隊を集結させました。そしてやが
て到着したバルキースの使節団は、軍隊によって軍備を整えた深い森へと導かれ
て入ったのです。使節団の男たちは、彼らすべての富も、スライマーンの王国の
豪華さの前では何ものでもないことを知ってとても驚きました。そして彼らの贈
り物はとても小さく見えました。
また彼らは、スライマーンの軍隊にライオンや虎や鳥たちも入っていることに驚
かされました。そして自分たちが抵抗などできようはずもない軍隊の前にいると
いうことを悟ったのです。
それから彼らは大いに恥じ入りながら、女王バルキースの贈り物をスライマーン
に差し出し、彼にこう言いました。
―我々はあなたに従うことは拒みますが、戦を欲してはいないのです。ですから
この贈り物は、私たちの間の和平の印であり、我々はあなたがそれを受け入れて
くださるよう望みます。―
スライマーンは女王の贈り物に目をやりました。そしてそこから目を逸らして言
いました。
『「あなたがたは、わたしの富を増やそうとするのですか。だがアッラーがわた
しに与えたものは、あなたがたが贈るものよりも優っています。いや、あなたが
たは、自分の贈り物で(勝手に)喜んでいるだけです。」』(蟻章36節より)
王スライマーンは、この短い言葉で贈り物への拒絶を表しました。そして彼は、
富で彼の満足を購うやり方を決して受け入れないことを使節たちにわからせまし
た。彼らはスライマーンの満足を他のもので購うことができるのです。
『わたしに対してあなたがたは高慢であってはなりません。(真の教えに)服従
してわたしのもとに来なさい。』(蟻章31節より)
それからスライマーンは彼らを脅して言いました。
『「かれらの許へ帰れ、わたしは必ずかれらが立ち向かえない軍勢でもって臨
み、かれらの面目を失わせ身分の卑しい者にしてそこから追い出すでしょ
う。」』(蟻章37節)
執筆:ヌーラ アッダハマシ
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