巡礼物語
 

【回巡(タワーフ)】

巡礼月はキスワが上げられ、カアバがイフラームしたと言う



 カアバ聖殿の周りを7周するタワーフは、礼拝の一種です。そしていつもマス ジドに入るときは、履物は脱ぎ右足から入る点は、聖マスジドも同じです。また その際には、「アッラーよ、お慈悲の扉を開けたまえ」と唱えます。

 その後、直ちに黒石の方へ進みます。タワーフは、黒石のある角からスタート しますが、黒石には接吻や頬擦りができなくても、右手を上げて挨拶します。そ のときには、「ビスミッラー・ワッラーフ・アクバル」と唱えます。同様に最後 のイエメン角でも挨拶します。残りの二つの角では特に挨拶はしません。

 そしてタワーフ中は、クルアーンを読誦したり、祈りを捧げます。タワーフす る人たちは、自国語の祈りの言葉集を首に掛けて、歩きながらそれを読み上げて いるシーンをよく見かけます。日本語ではこのような出版物はまだありませんか ら、自分で準備することになります。

 どうして7周なのでしょうか。天国も7階に分かれているように、7はイス ラームでは大切な数字としてよく出てきます。またどうして時計方向と反対に回 るのでしょうか。天使たちも、天国の訪問の館で左回りに回っていたとします。

 あるいは、人生の時間を遡って反省するのだ、という意義付けをする向きもあ ります。いずれにしても、それらの直接の根拠は、預言者ムハンマドの慣行(ス ンナ)であったということになります。

 タワーフのうち到着時にするタワーフでは、男性は最初の3周を早足でするこ とになっています。これもスンナです。預言者たちが遠いアルマディーナから到 着したとき、マッカにいた連中は預言者一行が疲れているといって冷やかしたの で、元気一杯なところを見せるために早足にしたのでした。

 同じタワーフといっても、到着の時のものの他、さらに三種類あります。一つ は、巡礼月10日、石投げ、犠牲、散髪などが終わってからする、大挙のタワー フです。アラファの丘からどっと大挙してムズダリファの方へ移り、その後にす るタワーフだから、このような名前となりました。

 次は、別離のタワーフです。これは巡礼後、マッカを去る直前にするタワーフ です。最後は、随時に行われる慣行のタワーフです。これはマッカにいる限り、 できる限りたくさんするのがよいとされます。

 これら三種類は、到着のタワーフと異なって、イフラームの期間ではありませ ん(大挙のタワーフは、異性関係だけ禁止された状態でイフラーム中)。また初 めの3周の早足もありません。但し一旦タワーフが始まれば、そのやり方そのも のはいずれも同様です。

 実際にタワーフをしてみて、なかなか大変な勤行だということが分かります。 大変な人数ですから、思ったように進めません。聖殿近くだと、息苦しくなるく らいです。後ろからは足を蹴られて、ただ事ではありません。そう思って三階の テラスで行進すると、明らかに人ごみは緩和されますが、今度は一周の距離が格 段に長くなります。他方、今は凡て床は大理石張りです。昔それが暑い砂利路で あったとのことで、苦行(マシャッカ)の程度はその当時とは比べ物になりませ ん。

 でも巡礼のどの段階でも同じですが、格段の信仰上の重要性と意義がそれらが 苦行であるということを結果として忘れさせるので、本当に不思議です。だから 巡礼がすむと、ほとんどの人たちは、また来たいという憧憬(シャウク)を持つ ことになる様です。

 タワーフの一歩一歩は、自分の過去の過ちを帳消しにしてくれると聞くと、自 然と力が入ります。また黒石での挨拶を通じて、アッラーに誓約を立てているの ですから、どんなに周りに押されても疎かにはできません。特に、到着のタワー フの際には、遠路はるばるやってきたという気持ちが抑えきれないのが普通で す。

 カアバ聖殿の上空は、鳥が飛ばないとされてきました。筆者は三階のテラスか ら、そのことを確認しました。しかも少し離れて周辺を飛ぶ鳥は、タワーフと同 様に、左回りでした。昔から聖殿の天井に止まる鳥は、病気ですぐ死ぬか、ある いは直ちに治癒してまた飛び立つかのどちらかだとも言われます。聖殿周辺の熱 気が上まで伝わっているでしょうから、何かその辺に原因があるのではないかと 推察したくなりました。

 それにしてもカアバ聖殿は、なんと荘重な建物でしょうか。実際に見ての感動 は、その黒さでした。有名な金銀刺繍の装飾部分ではなくて、何もないと思って いた黒の部分です。そこには浮き彫りでやはり文字が書かれていて、それが黒色 に一層の重みと味わいを与えているのです。

 日本人なら誰でも好きな、漆器の黒です。これは写真では見えない、新発見を した気になったものでした。



筆者:アミーン 水谷
アラブ イスラーム学院研究者

(2007年8月7日更新)

                

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