読者の声
 

【特別講座 大使との対話】
〜これからどうなるアラブ中東と日本〜



 2月24日、青山のNHK文化センターにて、一日特別講座“大使との対話 これからどうなるアラブ中東世界と日本”が行われました。
 ファイサル・トラッド駐日サウジアラビア大使、駐日エジプト文化参事官カラム・ハリール博士、カリタス女子短期大学学長久山宗彦教授の3氏を講師として迎え、通訳・司会・進行三役をアルモーメン・アブドーラ氏が勤められ、会場に集まった参加者60人とフリートークを行う講座でした。


はじめに


ファイサル・トラッド大使;
 本日NHK文化センターにおいて初めて対談の機会を迎え大変感謝いたします。中東に関心をもつ方々の前でのトークは大変貴重な機会です。アラブと日本は地理的に大変かけ離れていると思われがちですが21世紀においては、もはやその関係に地理的問題はなくなっていると考えます。日本にとってアラブ中東エリアは90%エネルギーを依存し、経済的に大変重要な地域です。よってアラブ中東地域の安定は大変重要なことです。

 日本の参院対外調査委員会の結論においても、13項目提示された定義の中で、最重要項目として“イスラムと日本の対話”が挙げられています。日本とイスラムの対話が非常に重要であり、これからお互いのアクションを促し、相互理解を促すことが重要ということです。また元外務大臣河野洋平氏がその当時立案した、アラブと日本の関係促進の構想「河野イニシアティブ」をきちんと活用させなくてはならないということが1週間前の会議で提示されました。

 アラブ人は日本人を尊敬の目で見ています。特に歴史的文化的交流の中でアラブと日本の間に衝突は一度もなく、日本はアラブにとって大切な友好国です。日本がその立場を活かしてアラブ・イスラム地域への関心を高めていき、西洋文化とアラブ文化の架け橋になってくれると思っています。そのために両側に大切なものは言葉です。文化文明間の架け橋、また国民同士のつながりを強める言葉への関心を高め、両国の関係を強化していかなくてはなりません。

 本日は貴重な存在の二人がいらっしゃいます。久山先生はアラビア語が堪能であり、イスラム世界・文化に精通した専門家です、そしてカラム先生は日本語が堪能であり、日本文化に精通した専門家、また日本の古典研究の先駆者で、アラブ人として貴重な存在です。日本とアラブの相互理解は世界の平和環境を築くために重要なことです。




カラム・ハリール先生;
 本日は出席予定のエジプト大使が急遽エジプトへ戻らねばならなくなり、本日のメモを受取ることもできず参りました。私は30年前カイロ大学日本語学科で久山先生から日本語を学びました。その後サウジアラビアで8年間日本語の教鞭をとりました。フェース トゥ フェースで文化的対話ができることは大変重要なことです。友好関係のためには文化交流・文化を通じての対話が重要です。

 実は先日、政治を超えた日本とイスラムの対話が行われましたが、翌日の新聞各社で、その外務省ミーティングの記事が全く載っていなかったことは大変残念でした。日本とアラブの間で平和を目指した文化的対話があることを広く報道していただきと思っています。

 私は中学生のとき“日本の乙女”という詩 (エジプトの詩人ハーフィズ・イブラヒム作)を詠んで日本に惹かれ、興味を持ちました。彼はエジプト人に、“日本の乙女”を通じてその心を伝えたかったのです。またその3年後日露戦争で勝った日本を讃えた詩を詩人アフマド・シャウキーが詠っています。このように日本とアラブの関係は古くからあったのです。




久山宗彦先生;
 カイロ大学で2年日本語の教鞭をとり、その後イラク救援活動をし、またサウジアラビア、北アフリカ諸国と、あちこち見てきて、日本では、イスラム的発想が深く理解されていない、“宗教的思想が土台にあるものの考え方”がまだまだ浅いと思います。一つの神に始まり一つの神に終わるという最高の一つを目指すイスラム的考え方の深い理解が日本人にとって難しいのです。

 日本文化は多様性の中で調和していく和の文化で、外のものをどんどん取り入れ選択して適応させ吸収していき、取り入れた色々なものの間に軋轢が起きないようにやっていくという文化です。他方、現在は国際化の時代で、個人が直接、他にぶつかっていける開放された状態です。個人がそれぞれ、他との関係から自分のアイデンティティをはっきりとさせていける時代です。



続いて参加者とのフリートークに進んでいきました。

アラブ人が頭に巻く白いターバンと装束について教えてください。
厳しい暑さのアラブ世界において生まれた服装であるため、動きやすく太陽光線を集めないような薄い色のものが着られてきたと思います。さらに詳しくアラブ文化、装束についてはサウジアラビア大使館文化コーナー、ホームページで知ることができます。
アラブ女性の黒いベールは将来的に脱ぐのでしょうか。
では質問したいのですが、日本女性は着物を手放しますか? アラブ女性のベールは伝統と文化のあり方を示しています。女性は自らの意思でそのベールをかぶっているのです。決して強制されているものではないのです。またアラブ社会の美意識とは“内面的な美”を大切にすることです。
アラブの料理は大変おいしいのでアラブ諸国に行くと太ってしまいます。ところでアラブの方はふくよかな方が多いです。内面的美はよいとしても、健康面でのケアなどはどう考えていらっしゃいますか。
日本では安倍首相が“美しい日本”をスローガンに掲げましたが、アラブもこれから“美しいアラブ”を目指して努力していきたいと思っています。世界は一つの小さな村であり地理的な距離はさほど影響はないと思います。文化文明の対話はとても大切です。しかしまた同時に自分の原点を忘れてはいけません。ところで第二次世界大戦後日本は様々な困難を克服し、人的財産で世界のトップになりました、原点を保持しながら発展を遂げる難しさを日本は解決したと思います。そして今美しい日本を作るために、文化的土台、原点に今一度立ち返ることが大切だと思います。サウジアラビアも現在同じ問題に直面しています。日本とアラブはどちらも強く深い文化土台をもっているので、互いに理解しあえる構想を持っています。両者が独自の文化を認め合うことがとても大切です。
サウジアラビアで仕事をしました。仕事の仕方については是非を聞いてから進めていたのですが、男性と席を並べて仕事をしたために周りから随分からかわれたという経験をしました。これから仕事を続けていくのに、どんなことに注意したらよいかアドバイスを下さい。
職場での働き方、対応の仕方の違いは仕事回数を重ねていく中でわかっていきトラブルや誤解は解消されていくと思います。ところで西洋でも日本でもアラブ女性に対する誤解が見受けられるのは残念なことです。アラブでは女性は大変大切にされており、アラブの女性観は大変すばらしいものなのです。
日本文化における女性観も素晴らしかったと思いますが明治以降から乱れてきたようにも思います。一方アラブ社会で男性と女性が1対1にならないようにするのは、その場には3人目シャイターンがいると考えられるからです。それはアラブでは女性を大切な存在と考えているからこそで、アラブの女性観は大変素晴らしいものなのです。どうぞ自分の目で見てください。
アラブでは女性を尊敬しており女性にいやな思いをさせたくないと思っているため女性は女性だけで座席に着く、公共図書館では入り口が分かれて男女見えないようにできている、といった配慮がなされているのです。

 3人の先生方から、このように、わかりやすい視点を頂きました。
 また、会場にはバハレーン大使も参加されており、日本の和の文化について質問されました。

敗戦後の復興をとげた日本の文化、調和の秘訣とは何ですか?
日本の古い文化に起因しているもので古事記・日本書紀にさかのぼりますが、そこには八百万の神がおり、いろんな立場で争うこともあるが互に自らを抑えあって和合していたのです、そういう構想が神道にあり、現在も続いているものです。それは無意識に日本人のなかにあるものであり、和を大切にしようとする無意識下の宗教のようなものであります。ところで現在の日本はこれが乱れてきており、一方、他に直にぶつかっていける環境があります、イスラム世界に対しても直にぶつかっていけるのですが、そうすると和の意識が崩れさってしまうのかというとそうではなく、無意識的に和の文化をもちつつ他を明確にしていく。そして同時に自分も明確にできていく、さらに自分と神との関係も明確にできるのではないかと思います。

 まだまだ質問しようと参加者が手を挙げる中、終わりの時間を迎え、最後に先生方より一言ずつ頂き、まとめとなりました。

トラッド大使;
 “イスラムIslam”という言葉は“平和Asalaam” から生まれた言葉です。アラブと日本で手を組んで、協力して平和を築いていきたいと思います。お互いの距離を縮めるためには、関係に傷をつける誤解は排除していかねばなりません。直接的対話を通して誤解は解消し、相互理解を深めていきたいと思います。日本とアラブの対話は世界のために必要なのです。

カラム先生;
 和の文化については久山先生の“和の文化とイスラム文化”を読んでいただきたいと思います。日本の文化は素晴らしいし、又、日本は他を受け入れるスタンスがあります。地理的に近いヨーロッパは遠い感じがするのに日本が近く感じるのはこのためです。9.11の後、エジプトの留学生300人がアメリカから日本へ移動してきたのです。日本文化は素晴らしいので大切にして自信を持っていただきたいと思っています。

久山先生;
 和の文化は良い面と悪い面があります。現在、日本人は和の文化を出発点にして国際化国際化と奮起して進んでいかねばなりません、一方、不変的宗教をもち自信があるイスラム人は、どうやって他国にそれを浸透させられるかという勢いで積極的に日本語を勉強し、日本でイスラムがどのように書かれているか知ろうとしています。アラブと日本は逆の面での課題を持っています。


受講を終えて

 カラム先生が日本に惹かれ興味を持った契機は“日本の乙女”という詩だったということ、そしてその詩を例に、アラブと日本の間に古くからよい関係があったことを教えて下さいました。私は美しいアラビア語を聞いたとき、そしてコーランの響きを知ったときアラビア語を学びたい、アラブを知りたいと思いました。内面的美という言葉が出ましたが、日本でも文化的価値観として最も尊ばれてきたものは、精神的な美しさです。

 たとえ宗教や歴史が大きく異なっていても、日本とアラブはどちらも深い歴史と文化をもっており、そこには共通の“精神性を尊ぶ心”があるのです。だからこそアラブと日本の距離は文化的価値観に共感する度に大きく縮んでいき、相互理解は対話によって加速度的に深めることができるということです。これから文化的対話の機会がどんどん増えていくことを願います、また日本では、アラブと日本の対話が行われていることを広く国民に知らせる努力がまだ足りないという指摘も頂きました。

 日本人はアラブを知るためにイスラム的発想の理解を深めていかねばなりません。言葉を学ぶ教育機関も必要ですし、アラブの詩や文学、美術や歴史を知る機会が必要です。近年日本においては文化的価値観が崩れつつあるという危機感が次第に大きくなり、今回、安倍政権が美しい日本をスローガンにしたのは、文化的価値観を思い出し社会に取り戻そうとしているからです。

 対話の最後に、日本の伝統的精神文化は素晴らしいので自信を持って下さい、という力強いメッセージを頂きました。決して忘れてはいけない自分の原点・文化的価値観も、他文化との対話・交流を通して思い起こしていけるとも教えて頂きました。

 本日は、大使、先生方、参加者60人が膝を交えて語り合うという貴重な文化的対話の2時間で、あっという間に終わってしまいました。参加者たちはみな次の対話の機会を心待ちにして会場をあとにしたことでしょう。



執筆:岡村泰子
アラブ イスラーム学院学生

(2007年3月13日更新)



                

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