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2003年夏、スーダンを訪ねることになった。学院での授業中、アハマド先生に「よかったらスーダンに遊びに来なさい」と言われたのがきっかけだったが、それにしてもなぜ真夏のスーダンを選んでしまったのだか。結果から言えば通常考えられない様々な経験をできたわけで、それはそれでよかったのだけれども。
出発はまずカイロから。夜行列車で真っ直ぐアスワンに向かう。ここエジプトの列車はいつものことなのだが夏寒くて冬暑い。まあ、限度を知らないエジプシャン。冷暖房を効かせ過ぎているのだ。この先、エジプトを列車で旅行しようという人は要注意である。
アスワンには翌日の昼前に到着。アスワン訪問はこれで3度目だ。観光客が多く訪れる地域というのはあまり好きではないのだけれども、ここアスワンの雰囲気は悪くない。この時にはマルワホテルという安宿に泊まった。そこでは10歳くらいの少年が働いていて、聞いてみると学校には行っていないという。それが夏休みだからなのか、それとも普段から通っていないのかはわからないが、この国の社会問題のひとつである児童就労であることには違いなかった。まあカイロのスークなどでも見掛けるし、そういった意味では珍しくない。しかし子どもたちが働いているということ自体が普通に思えてしまうことこそ問題なのであろう。とはいえ、子どもたちは彼らなりに責任感を持って一生懸命働いているものだ。いくらか世間話をしていたら、そのうちの一人の子が塗り薬はないかと尋ねてきた。よくよく見てみると、肌の露出されている大部分の箇所を虫に刺されているではないか。あいにく薬の持ち合わせはなかったのだが、近所の薬屋で新しいのを買って彼に与えることにする。薬自体は3ポンド(約60円)。それすら買えない貧しさというのは、エジプトにおける地方の人々の生活の現実なのであろう。でもそれに絶望せず、たとえその日暮らしでも明るく振舞っているエジプシャンから見習うべき面も大いにあると思う。
アスワンには1泊だけして、翌日にはスーダンを目指す。アスワンハイダムで堰き止められている人造湖、ナセル湖を船で渡るのだ。アスワンの駅からハイダムまでは列車で移動する。それにしても、イミグレーションの手続きの遅いこと遅いこと。もっとも、こういったことは慣れっこなので心構えは最初からできているのだが。
船は思ったより快適だった。それは1等船室だったからかもしれない。対して2等では乗客がところ狭しと雑居していて難民船さながらの光景である。しかしこの船はなかなか面白かった。礼拝の時間になるとアザーンを流し、礼拝は船のデッキに集まって行われる。私も「よかったらアザーンを唱えないか?」と言われたが、トチったら恥ずかしいので丁重に断った。また乗客も多くはスーダン人かエジプト人なのに、中にはコテコテのエジプト方言を流暢に話すカナダ人がいたし、ほかのアフリカ国籍の人もちらほらと見掛けた。もっともアラビア語で会話するカナダ人と日本人の構図など、そうそうあるものではない。それから移動中にこの船から眺められる景色ではアブシンベル神殿が特筆すべきものであろう。私に言わせてみると神殿の建設そのものより、ダム建設による水没から救うために数十メートル上方へ解体移動させたという技術のほうがすごいということになるのだが。
それにしてもスーダン側の町、ワディ・ハルファは何も無い町だった。ただただ暑く、砂埃が舞うだけの。こんなところに人が住んでいること自体が不思議でしょうがない。首都のハルトゥームまではバスと列車とがあり、自分は列車での移動が好きなのでそちらを選ぶ。チケットの購入などは親切なシリア人が手伝ってくれて何の問題もなかった。
スーダンの暑さはヤバイ!と聞いていたが、到着したのは夕方だったからまだしも、一日経つと当然夜が明けて朝、そして昼がやってくる。その暑さとやらをいよいよ体験することになった。私はかつてアテネやイスラマバードで40度を超える暑さを体験しているが、ここではそれに匹敵するか上回るかというものだった。アテネの場合、アメリカ資本の世界規模・某ハンバーガー店に駆け込めば冷房は効いている。しかし、ここハルファでそんなものを求めること自体に無理がある。しかもこの町、水道が通っていないのだ。水はナイル川かナセル湖から運んできたと思われるものを水がめに蓄えてありそれを使う。スーダン人達はその水をがぶがぶ飲むものの、さすがに自分はそれを飲む気にはなれなかった。衛生・医療といった言葉と無縁のこの地で身体を壊すというのはやはり危険なことである。が、この町のあらゆる店でミネラルウォーターが品切れになってしまった時には止むを得ず使うしかなかった。しかも、追い討ちをかけるように「列車の出発は1日延期された」という知らせまでやってくる。いったいハルファで何をすればいいんだか。暑さのため頭は働かず、勉強をする気にも本を読む気にもならない。また横になっても暑過ぎて寝られたものじゃない。それこそ人生でもっとも無駄な1日を過ごす羽目になった。
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