新宿から大急ぎで乗り込んだ地下鉄大江戸線の終電車は、わずかな乗客を乗せて走り出しました。
「もしかして、シリア代表選手の方ですか?」
同じ車両に居合わせた大学生風の若者が話しかけてきました。見ず知らずの日本人に話しかけられて、シリア代表のGKマフムード・カルカル選手は嬉しそうに「Yes」と答えまた。2月2日、埼玉スタジアムで行われたキリンチャレンジカップ、日本代表とシリア代表の試合の後、強行日程の中で翌日の朝には帰国しなければいけないシリア代表選手たちを、東京観光に連れて行くため、一緒に六本木へ買い物に行くことになりました。
試合は3−0で日本の圧勝でしたが、選手たちは敗戦に落ち込むどころか、逆に満足している様子です。
「見たか?俺の好セーブ!バシバシ止めてただろ?」
3点も取られているのに、まったく気にする様子がありません。確かに前半は日本を相手に五分の戦いを見せたシリア代表でしたが、後半は失速、スタミナが切れていたようでした。
「点を取られたのは俺のせいじゃないよ。ちゃんとディフェンスしないからさ」
確かにそうだけど、こうも明るく言われるとこちらも拍子抜けしてしまいます。キャプテン、FWのマーヒル・サイード選手も笑っています。
「点を獲れなかったのは口惜しいけど、日本は本当に強いチームだから仕方ないさ」
それでも、もし彼らが本来の調子で試合に臨めていたら、結果は変わっていたような気がします。来日のために、ダマスカスからイスタンブールに着いたあと、飛行機のマシントラブルによって、空港で18時間も待たされてしまったそうです。試合前には、彼らの疲労はピークに達していました。
日本のお土産に買いたかった着物は、残念ながら六本木のショッピングセンターには売っていませんでした。なぜか、シリア産のアレッポ石鹸が売られているのを発見して、その値段の高さにとても驚いていました。800円ぐらいだったと思いますが、シリアに行けば20個は買える値段のようです。現在のシリアはあまり裕福な国ではなく、サッカー代表選手といっても暮らしは楽ではないようです。それからしばらく、カフェでおしゃべりをしたあと、タクシーでホテルに戻りました。
別れの挨拶をしようとホテルのロビーで待っていると、カルカル選手が部屋から戻ってきました。手に一冊のクルアーンを持っています。
「これを君にプレゼントしたいので、よかったら毎晩読んで欲しいんだ。その前には必ず手を洗ってね!」
いつかまた会えるように、私たちは神様の御心のままに再会を約束し、お別れしました。
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