アラブサッカーに恋して
 

【サッカーボールに希望を込めて】
 

レバノンのトリポリは、美しい海がある観光地ですが、首都のベールートに比べ ればはるかに田舎で、のんびりした小さな町です。ホテルの数はさほど多くはあ りませんが、予約をせずに入った安宿はシャワーも完備されていて、一泊ツイン で2000円位、オーナーのおじさんは親切で、安心して滞在できました。
 
トリポリ中心部、ホテルからタクシーで5分ほどの近い場所に、試合が行われる ムンシパルスタジアムがあります。チェックインを済ませ、荷物を置いて、急い でスタジアムへ向かうと、前日練習を行うザウラーの選手たちも、ちょうど到着 したところでした。イラクの選手たちとはガルフカップ以来、半年ぶりの再会。 U-17代表選手のアラァとオマルは昨年の夏、日本に来日しましたが、久しぶ りに会った二人はすっかり大人びていて、ザウラーのレギュラー2トップとして 活躍していました。ただ、変わらないものが二つあります。終わらない戦争と、 それを感じさせない彼らの笑顔です。

試合はレバノン軍が警備する物々しい雰囲気の中、観客もほとんどいない状態で 行われました。それとは裏腹に、快晴の空の下、青々した芝でプレーする白いユ ニフォームのイラク選手たちは、伸び伸びとピッチを駆け回り、力強い印象を焼 き付けます。ウズベキスタンの選手のコンディションも良くなかったのか、終始 ザウラーが攻勢を保ち、1対0で勝利しました。予選敗退が決まっていた消化試 合でも、この勝利は彼らにとってかけがえのないものとなったでしょう。スタジ アムを引き上げるバスの中は大騒ぎ。大音響で流れるアラブミュージックに合わ せ、代わる代わる踊っては勝利の雄叫びをあげていました。

試合翌日、バグダードまでの帰路、陸路でシリアのダマスカスまで彼らのバスに 同乗しました。レバノンとシリアの国境で、日本のパスポートとあらかじめ取っ ておいたビザのおかげで、私の税関手続きはすぐに終わりましたが、彼らのほう は簡単ではありません。はじめはバスの中で待っていましたが、しばらくして彼 らは大きめのタオルや敷物を持ち、全員が外に出てきました。礼拝の時間。国境 の駐車場に、しばしの静寂が漂います。

これまで幾度となく、イラク選手以外でもアラブのサッカー選手たちと出会って きましたが、彼らに共通して言えることは、絶対的な信仰です。普段どんなにふ ざけていたり、底抜けに明るい彼らでも、礼拝中の表情は真剣そのものです。時 間や場所を選べないことがあっても、スタジアムの中、グランドの上、移動の合 間、いつも彼らは神と共にいるような気がします。そして、試合中の表情は、礼 拝中のそれと似ています。

中東というと真先に戦争やテロといった危険なイメージを抱かれてしまいがちで すが、武器や権力を振り回さず、ボールに夢を託し戦う人々がいるということを 知っていて欲しいと思います。以前、バーレーンのスタープレーヤーのムハンマ ド・サルミーン選手がこんなメッセージを残してくれました。
「アタマンナー タウフィーク ワッサラーム リル・シャリクルアウサト」  
中東の繁栄と平和を願っています。
 
今回のアラブマガジン連載はこれで終了します。まだまだ書き切れないことやエ ピソードがたくさんありますが、今後もアラブサッカーを追い続け、お伝えする ことができればと思います。いつかまた、どこかで、お会いできますように。ご 拝読ありがとうございました。


執筆:渡邉真由子
フリーライター


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