【イフリーンの職人】
多くの職人達の存在はここシリアが長い歴史を持っている文化色の豊かな国であることを再認識させてくれる。その中には今や伝説となってしまった職人もいれば、5世紀以上も前から変わらぬ伝統を守り続けている職人もいる。そのひとつ『イフリーン刺繍』は20年前に創作をやめて以来、現在市場に残っている作品のみがその存在を語ってくれる。私はこの『イフリーン刺繍』についてダマスカス旧市街で絨毯店を経営するアハマド・アルナハールさん(30)に話を聞いた。 私:『イフリーン刺繍』はシリアのどの地方で誰によって作られたのですか?アハマドさん:刺繍はアレッポ郊外にあるイフリーン地方でつくられました。この地方の山々には360の村があり、そこに住むクルド人が創作者です。『イフリーン刺繍』を使用したラグは別名『クルドラグ』とも呼ばれます。 私:刺繍はどのようにして生れたのですか? アハマドさん:刺繍は職人技としてではなく人々の生活の中で生れました。昔は機械も工業も発達していなかったので、ベッドカバーや部屋の間仕切りに使ったカーテンなどを手作りしていました。また、彼らの間では結婚式までに花嫁と花婿がオレンジ色(オレンジは「幸福」を意味)のベッドカバーを少なくても一つは用意するという習慣があったので、刺繍は各家庭でされていたのです。 私:『イフリーン刺繍』の特徴と素材について説明していただけますか? アハマドさん:『イフリーン刺繍』では縦横に織ったラグに刺繍された色とりどりの抽象的な絵柄とノットが特徴です。ラグの多くは4つのパーツ(約150×40cm)が繋ぎ合わさっています。素材の80%は白色が綿で他の色が羊毛ですが、絹糸や、人間の髪の毛、銀を混ぜた綿、鳥の羽などを使う事もあります。 私:オレンジ色のラグがやはり目立ちますが、刺繍の模様にも共通点が見られますね。それぞれの模様も特別な意味を持っているのですか? アハマドさん:ラグには「目」を模ったひし形が多く刺繍されています。目は「幸福を呼び、悪を遠ざける」お守りで、ひし形を基にした模様は幾つかあります。ひし形の中に男女が入っている刺繍は新婚家庭の幸福を願い、ひし形の中に腎臓を模った物は健康のお守りです。以前、水がきれいでなかった時代に腎臓病が蔓延し人々が苦しんだので、この刺繍はそういった背景から来たのでしょう。刺繍にはこの他にも花、川、櫛、蜂の巣など身の回りにある物が使われています。 私:なぜ『イフリーン刺繍』の職人は伝説となってしまったのですか? アハマドさん:イフリーン地方の人々は20年前に刺繍の創作を止めてしまいました。彼らの多くが現在は農業に専念しています。(参考:この地方は世界で常に高い評価を受けている良質のオリーブの産地でもある。)以前のように刺繍をする時間が無くなってしまったのです。作品の多くはヨーロッパを中心とする収集家やディーラーに買われシリアに残っている物はイフリーン地方を含め少ないですが、それでも私の魂に語りかける作品に出会った時はワクワクします。 私:今日はお話をありがとうございました。
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2005年 アラブ イスラーム学院