声と像
 

【声と像 3】



 アッラーのご加護のおかげで成長しつつある私の娘は、私を昔話へと引き戻し ます。私が外交の仕事をしていた初期の頃の話や、様々な国の首都の間を移り住 みながら過ごした長い道のりについての話へ。

 それらはみな、文明も文化も異なり、私たちとは違う言語を話し、私たちとは 違う方法で物事を考え、また私たちとは違う宗教を持った民族や国民がいる国々 でした。

 娘は私にこう問いかけるのです。私たちは今、どんなに遠い距離をも近くし、 互いのコミュニケーションを容易にしてくれるインターネット時代にいるという のに、それでもなお多くの国々に外交官を派遣する必要があるのだろうか、と。

 コンピューター画面を通した「声と像」によって、私たちはクリック一つで世 界の首都の間を移動し、会いたい人と会い、世界の新聞や雑誌に至るまで、書か れたものや出版されたものを読むことができるのだし、また各地の出来事をリア ルタイムで追うことができるのだから。

 いや、それだけではなく、私たちはその通信によって友情を築き、欲すること を広めるべく自分が望む人と瞬時にやり取りができるのだから。

 そこで私は、外交の仕事の目的は、リヤドの外務省の建物に掲げてあるこの聖 句が教えているのだ、と娘に答えました。

<われは……種族と部族に分けた。これはあなたがたを、互いに知り合うように させるためである。アッラーの御許でもっとも貴い者は、あなたがたのうち最も 主を畏れる者である。……>
(聖クルアーン:部屋章13節より)

 ですからさまざまな種族や部族が知り合うのはアッラーの命なのです。地上の 住人の近親の絆を強めるために。私たちはみな祖先なるアーダムとハッワーゥの 子孫ではないでしょうか? その血縁を否定できる者は誰もいないのです。

 容貌や肌の色、言語、宗教、宗派の多様さは、それぞれの暮らしに独自の味を与え、またそれぞれの考えにオリジナリティーを与える色彩なのです。

 また、人類の利益はみな互いに混ざり合っているものであり、誰一人他者なし でいられる者はいないのです。

 たとえば、私たちが生きる糧としているパン。それを準備するために働くの は、種を蒔く農夫、それを収穫する人、小麦を集める人、それを粉挽き場に運搬 する人、粉を挽く人、小麦粉を売る人、買う人、それを釜へ運搬する人、粉をこ ねる人、そしてそれを焼く人……。

「今はもう大きくなった『私の小さな娘』よ、私たちが必要とするいかなる商品 に関しても、必ず多くの人々が関わっているのだ。

 商品の中には、いや、ほとんどの商品は、多種多様な人々による努力のたまも のであり、世界各地の学者や研究者のアイデアの結晶なのだよ。

 アッラーはすべてのしもべたちにこの世の糧を分配なされ、またすべての社会 や民族に、貴い天然資源を分配なされたのだ。人は誰でも他者なしでは生きてい けないし、またどんな社会も、他の社会なしでは生きられないのだよ。

 この原点から、人々は都市から都市へ、国から国へと情報や知識や商取引を求 めて移動するのだ。より強い協力関係と、より広い利益のために。そしてそのよ うな移動や人の動きによる利益を実現するために、すべての国が外国へ外交官を 派遣するのだよ。彼ら外交官が派遣先国で自国民の扶助となり、また最新の科学 や文学を自国へ伝えるための『目』となるためにね。

 また、外交の目的は多様であるため、外交使節の専門もまた多様なのだ。外交 職としての外交官や領事部員に加え、国連やユネスコやその他の国際機関へ参加 しながら軍事・文化・産業・保健などの問題を追う各分野の専門使節もいるのだ よ。」

 娘は外交官の専門の多様さについて肯きました。彼女は以前大使館のパー ティーで、サウジアラビアの軍事担当外交官と、エジプトの教育担当外交官、そ して日本の商業担当外交官と会ったことがあるからです。

 ここで娘は、世界の昔の大使たちについて尋ねました。そこで私は、それは アッラーが人類への導きのために、また人類に親愛の情を広めるために選ばれた 使徒や預言者たちである、と答えました。

 それについては、至高なるアッラーが使徒モハンマド―彼に平安と祝福があり ますように―に語られたこの御言葉の中にはっきりと示されています:

<われは只万有への慈悲として、あなたを遣わしただけである。>
(聖クルアーン:預言者章107節)

 すると娘はこう言いました。
「それなら、愛を広め、憎しみを拒むことで慈悲を実現する努力をすることは、 すべてのムスリム外交官の義務なのね。イスラーム世界の国々に不義や混乱が広 がり、国を荒廃させて破滅へと導く宗教的、民族主義的極端さが広がるこの頃で は特に!」

 そこで私はこう言いました。
「そう、それは義務なのだ。神聖なる義務なのだよ。そしてそれは、外交の仕事 の目的に関して今日私が最初に話したことで、つまり、先の聖句がこのように教 えていることなのだ:

 <われは……種族と部族に分けた。これはあなたがたを、互いに知り合うよう にさせるためである。アッラーの御許で最も貴い者は、あなたがたのうち最も主 を畏れる者である。……>
(聖クルアーン:部屋章13節より)
 
 アッラーの御言葉は真実なのだ。アッラーに対する畏敬の念によって人の魂は 清められ、それにより、安全や安寧を広めることができるのだよ。」

 娘は私の話に肯き、あくびをし始めました。そろそろ寝る時間が来たのです。 そこで彼女は、今度は私の外交の歩みの初期の日々について話してほしい、と言 いました。私はそれを約束し、あなた方読者の皆様をその証人とします。
 ―アッラーこそ最も良い証人であられます―。


マドリードにて―ヒジュラ暦1426年ラマダーン月24日



筆者:モハンマド バシール クルディー
前駐日サウジアラビア大使       

(2007年8月14日更新)

                

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