声と像
 

【声と像 8】



 私の娘はこの夜、まずジャーナリストと外交官の類似点について訊ねました。
 私の今までの話に基づけば、ジャーナリストも外交官同様、「声と像」によっ て仕事をしているのではないか、と指摘して。

 ジャーナリストもあちこちで話や像を取材して記事を書き、それをさまざまな 種類のメディアが広めるからです。

「ジャーナリストの仕事においての方が、『声と像』はより明確だし、それによ り多くの一般大衆にそれを届けることができると思うの。」と言うのです。

 そこで私はこう答えました。
「それはそうだね。それでもその2つの職業は180度もの違いがあるのだよ。 双方とも相手を必要としあってはいるけれど。

 ジャーナリストは目の前の人物のベールを取るべく、その人の胸のうちや考え やしたいことを明らかにしようと努力し、『声と像』によってできる限りの情報 を集めるのだ。その情報の大半は信用できないものかもしれないが、時に信用で きるものもある。

 そしてジャーナリストはそれを公表するのだよ。事を公にされた人がその後被 る害や、世間の反応など気にすることもなく。ジャーナリストの関心事は人に先 んずることであり、また秘められた言葉や行動を白日の下に晒すことなのだから ね。

 近年の歴史では、ニクソン元大統領を失脚させたウォーターゲート事件がその 好例だ。選挙で対立候補を失敗させようとして対立政党の情報を盗み出そうとし た自分の政党の陰謀を、彼は隠蔽していたのだ。

 また先ごろでは、オーストラリアのテレビ局が、占領軍によるイラク人服役者 への虐待を示すビデオテープを入手すべく努力したことが挙げられる。

 占領軍は、イラク国民の尊厳のため、また彼らを不義と圧政から解放するため に、自分たちはイラクにやって来たのだ、と主張していたのに。

 占領軍の同盟国でも流されたあのドキュメンタリー映像は、占領軍の主張の虚 偽を否定し、『声と像』によって、占領軍や彼らに加担する者たちが主張する道 徳理念の偽りを暴くために流されたのだ。

 世界最古の文明を持ち、世界で最も多く文明的貢献をなしてきた国に、その道 徳理念を実現せんと尽力しているのだ、と彼らは言ってきたのだ。

 娘よ、このように、一人のアメリカ人ジャーナリストによって自国大統領の秘 密は暴かれ、彼をホワイトハウスから追放することができたのだし、また一人の オーストラリア人ジャーナリストによって、イラク駐留同盟占領軍はその立場を 悪くし、近い将来には、アッラーのご支援により、彼らを撤退へと追いやるかも しれないのだよ。」

 娘はこの2つの事件について、こんな古い言葉でコメントしました。
「始まりは言葉。そして今尚言葉は強く、その力は武器に勝る。」

 私はこう続けました。
「娘よ、その通りだ。言葉は何より強い。もしも言葉が善く使われたならば、そ の善は人々に広まり、悪く使われたならば腐敗が広まり、人々の状況は悪化する のだ。

 今日のメディアにおいて、『言葉』にはいくつもの概念があるのだよ。人の舌 が発するのも『言葉』なら、カメラやビデオが撮影した映像も『言葉』、そして 隠された情報もまた『言葉』なのだ。」

 私たちのイスラームの教え―アッラーはその教えによってしもべたちに宗教を 完成させられました―は、社会を助け、害悪を除去するにあたり、「言葉」に大 きな役割を与えました。至高なるアッラーは対話の礼節について、このように仰 せられました:

<言ってやるがいい。「啓典の民よ、わたしたちとあなたがたの間の共通の言葉 (の下に)来なさい。わたしたちはアッラーにだけ仕え、何ものをもかれに列し ない。またわたしたちはアッラーを差し置いて、外のものを主として崇めない。」  それでもし、かれらが背き去るならば言ってやるがいい。「わたしたちはムス リムであることを証言する。」>
(聖クルアーン:イムラーン家章64節)

 また至高なるアッラーはこう仰せられました:

<あなたはアッラーが如何に善い御言葉について比喩を上げられているかを考え ないのか。それは良い木のようなもので、その根は固く安定し、その幹は天に (聳え)、>

<(それは)主の命により凡ての季節に実を結ぶ。アッラーは人びとのために比 喩を上げられる。それはかれらを反省させるためである。>

<アッラーは現世の生活においてもまた来世でも、堅固な(地保に立つ)御言葉 で、信仰する者たちを立たせられる。だがアッラーは悪を行う者を迷うに任せ、 かれは御心のままになされる。>
(聖クルアーン:イブラーヒーム章24〜27節)

 この御言葉の導きにより、ムスリム外交官は真実を確立し、意図的であっても そうでなくても、私たちの信条や社会を害し、悪化させるような亀裂を修正する ために働きます。そしてムスリム外交官が扱う「言葉」の役割はここに現れるの です。

 アッラーは種族や部族が互いに知り合うために私たちを創造なされたのであっ て、互いに争うためではなく、アッラーの御許で最も貴い者は、私たちのうち最 もアッラーを畏れる者である(*訳注)―というスローガンを掲げて。

 外交官は、英知によって、また人類の長であり私たちの聖預言者にアッラーが 下されたこの忠告によって、物事にあたらなければなりません:

<……あなたがもし薄情で心が荒々しかったならば、かれらはあなたの周囲から 離れ去ったであろう。……>
(聖クルアーン:イムラーン家章159節より)

 また外交官は、目的を果たすまでは、自分の仕事について公言してはなりませ ん。

 外交官は相手側とのやりとりの結果を所属機関に報告し、その所属機関がそれ を公表するか否かを決めるのです。このように、真実を得てそれを広めるために 働くジャーナリストと、真実のために静かに働く外交官との違いはとても大きい のです。

 すると娘は、ジャーナリストと外交官との接触について訊ねました。そこで私 は、目的が崇高で、手段が法的に認められたものであり、人間の尊厳が保障され る場合において、互いの仕事を補うべく両者間の協力や調整の道が開けるのだ、 と答えました。

 そして娘がその例を求めるので、私は、今日の私たちとデンマークとの関係に 代表される西洋諸国との関係を取り上げました。

 イスラーム諸国全土に、そしてイスラーム圏外のムスリム社会にまで及んだこ の度の怒りの波を受け、私たちはメディアと協調しなければならないのです。私 たちの権利や神聖を損なうことなく亀裂を修正する働きかけを調整するために。

 そしてムスリム社会の怒りとそれに伴う殺人や破壊行為を理知の道へと変換す るために。また、ムスリム世界とキリスト教世界を遠ざけようと暗躍する第3者 の計略を失敗させ、視点を元に戻すために。

 我々の聖クドゥス(*エルサレム)を解放し、最初のキブラの民、そして第3 聖地の民の尊厳を取り戻すためのパレスチナ社会の真実の火を消さんとする第3 者の計略を。

 ムスリム外交官とメディア関係者は、ムスリム世界の東洋とキリスト教世界の 西洋の間で目的ある対話を始めるために、この機会を活かさなければなりませ ん。それは真実と公正と両者共通の利益に光を当てる中で、相互理解へとつなが るものとならなければいけないのです。

 また学生たちの新しい世代との対話も始めなければなりません。私たちは大学 や専門学校でそのような対話を催し、メディアを通してそれを記録し公表しま す。そして彼らと共に真実へと到達しなければなりません。

 聖エルサレムこそが問題解決の道であり、聖エルサレムが解放され、元々パレ スチナの民であるムスリムとキリスト教徒に返還されることこそ、世界の平静と 安定の鍵なのだ、という真実へ。

 パレスチナの人々は、先の選挙の試みが成功し、選挙に立ち会った国際監視員たちが選挙の公正さを証言した時―その中には元アメリカ大統領もいました―、 強奪された土地の一部に新国家を建設する権利と正当性を、既に証明しているの です。

 この夜の話を終える前に、娘は、先のビデオテープを見て以来、訊きたいと 思っていたことがある、と言いました。

 それは、占領されている国民には、人間としての尊厳を保護するために、赤新 月社や赤十字やその他の国際人権組織のような慈善団体によって管理作動される カメラを刑務所に設置することを求める権利があるのではないか、ということで した。

 それは、国際エネルギー機関が、人類の生命を保護するため、平和利用目的の ために核燃料生産が行われているかどうか確認するために核燃料工場に撮影機器 を設置するようイスラーム諸国に要求していることと、同等ではないのか、と。

 そこで私は娘に、「それは妥当な質問だね。あわよくば彼らがそれを聞いてく れんことを。」と言い、またの機会を約束して話を終えたのでした。


*訳注:聖クルアーン・部屋章13節に、次のような聖句がある。
<われは……種族と部族に分けた。これはあなたがたを、互いに知り合うように させるためである。アッラーの御許でもっとも貴い者は、あなたがたのうち最も 主を畏れる者である。……>


ジッダにて―ヒジュラ暦1427年ムハッラム月19日


筆者:モハンマド バシール クルディー
前駐日サウジアラビア大使       

(2007年10月23日更新)

                

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