声と像
 

【声と像 12】



 私の日本人の友人と彼の2人の同伴者は、我が家で夕食を共にするために、約 束の時間ちょうどにやって来ました。時間を守るのは日本人が大切にしている習 慣です。

 それは、招待してくれた人への敬意からでもありますし、また、「金」である 時間を大事にするためでもあります。

 友人の意向で、その日のメインディッシュはドウカス(*サラダの一種)を添 えたサリーク(*米の炊き込み料理)でした。

 クール・ドウカスを添えたサリークは、私が大使をしていた時に、東京のサウ ジアラビア大使館の公邸でもてなした日本の友人たちのほとんどが気に入ってく れた料理です。たぶん、サリークには余りスパイスが使われていないせいか、あ るいは、サリークの主材料が米だからではないでしょうか。

 事前に友人に、牛肉のサリークがいいか、鶏肉のサリークがいいかと訊ねたと ころ、彼は鶏肉を選びました。ここの鶏肉はトリインフルエンザには感染してい ないことを私が保証したからです。

 友人は日本の新聞で、アラブの国の養鶏場でトリインフルエンザが発生したと いう特派員報告を読んでいたのです。

 それによると、その養鶏場の管理者は、鶏の感染についての報告を怠り、感染 している鶏もそうでない鶏も同じように屠り、そのすべてが安全であり、保健条 件を満たしているとして、市場へ卸したのでした。

 友人はこう言いました。
「このような繊細な事柄に関して、一部の人々が事を簡単に考えてその重大さを 気に留めないことに、私は驚いています。しかもイスラームのメッセージを信じ る者でありながら。

 以前私が学んだように、イスラームは社会全体の健康を重視し、社会全体の利 益を個人の利益に優先させるのですから。」

 そこで私は、わが国では専門機関が養鶏場や市場をきちんと監視しており、養 鶏場の職員や国民は鶏の観察と報告に関して協力していて、我が国の鶏に病気が 発生した記録は今までにないのだ、と友人に伝え、彼を安心させたのでした。

 マディーナのミントを使ったミントティーを飲みながら、私たちはさまざまな ことを話しました。最初に、娘が友人から贈られたプレゼントのお礼を言いまし た。

 友人は娘に手のひらサイズのコンピューターを贈ってくれたのです。それはと ても精密で多機能のものでした。彼は、私たちの日本での日々から、娘が科学技 術や通信技術に大変関心を持っていることを知っていたのです。

 娘は早速そのコンピューターに目をやり、箱の裏に書かれている機能の説明書 きをすばやく読みました。それから友人の方を見て、電子政府が、政府、産業、 経済、メディア機関―メディアは通信技術革命で最も多くの利益を得たとされて います―の多くで支配的地位を占め始めたことを、彼も認めるのではないか、と 訊ねました。

 すると友人は、娘が新しい技術の歩みを注視していることを褒め、彼女の意見 に同調しました。これから行政の仕事はグロバリーゼーションの時代にますます 広範囲で国際的になっていき、パスポートや入国ビザなしで国境を越えていくこ とだろうと、予想して。

 また友人は、世界は民族間や国家間の開放と接近へと向かっており、それはム スリムにとっては新たなことではないのだ、と言いました。

 イスラームは本質的に全人類のための世界的メッセージであり、善のために努 力し、差別を撤廃します。イスラームの人間的、世界的原則のおかげで、西暦6 世紀には、アラブは世界の大部分の地域に真実のメッセージを伝えることができ たのです。

 中国内陸部からアフリカ最西端までも広がり、地中海沿岸都市を学問と情報の 中心地へと変えたイスラーム国家に類するような例を、歴史はそれ以来長い間目 にしていないのです。

 友人は更にこう言いました。

「それ以来、あなた方は何世紀もの間、知識と情報に関しては受け取るばかり で、提供しないできましたが、今、アラブムスリムの新世代がその知識と情報の 歩みを継承する時が来ています。

 過去のあなた方には、学問や文明の後進について弁明があったとしても、その 弁明は既に消えたのです。こんにち、あなた方には社会の3分の1を占める若い 世代がおり、その世代は通信技術革命を追いかけ、インターネットや衛星放送の 世界を操っているのですから。

 またあなた方には豊かな収益があり、それによって、あなた方の子孫の良い未 来のために尽くす人材を育てることができますし、また先進諸国と強い協力関係 を切り開くこともできるのです。

 日本は小さな国ではありますが、こんにち経済的には優れた地位にある国とな りました。それはかつての指導者たちが、国家の真の財産は人的資源であり、人 材育成に潤沢な資金を投入することこそ、未来への投資であると信じたからなの です。

 あなた方も日本で見てきたように、私たちには、人材育成の分野での日本の経 験を求める人々に提供する公的な、あるいは私的な機関が数多くあります。そし てサウジアラビア王国も、一部の分野で私たちの経験を紹介してきた国々の一つ です。

 私たちは、両国の意思決定者たちが互いに訪問しあい、それにより、より一層 の協力関係―いや多くのプロジェクトにおける共同関係の扉が開くように望んで いるのです。」

 ここで娘は、電子政府が外務省や外交機関の仕事を支配した時の役割につい て、再び訊ねました。

 すると友人は彼女に微笑み、私たちの会話が書かれた私の記事を読んだことを 告げ、前回は私の方が先に会話を終わらせたことに触れて、こう言いました。

「あなたの予想は正しいのですよ。それでも私はあなたに言いたい。私たちは、 電子政府を公的機関や、産業、経済、メディア機関のすべてに行き渡らせるべ く、ごく初期のうちに電子政府の扉を開き始めた国の一つだと思います。それで も尚、私たちは人の働きこそ最初であり、重要であると確信しています。

 電子政府は常規的な仕事の多くをこなしますが、物事の決定はあくまでも人間 の感覚に頼るものであり、技術の感覚に頼るものではないのです。

 そのほんの一例ですが、たとえば、私たち日本人は、海外のエージェントや共 同者を定期的に訪れ、その市場の動向や需要、予想される消費者の嗜好、競争相 手、そしてその競争相手の影響を商品の数量調整でいかに抑えるか、ということ について話し合います。

 私たちはその際、そのような仕事を新技術のネットワークを通して行い、時間 や費用や労力を節約することもできるのです。

 しかし―私はここでしかし、と言うのですよ―、人と人との会見こそ、物事を 推察し、評価する時には決定的なものなのですよ。

 相手がエージェントであれ、消費者であれ、会見から私たちは相手が考えるこ とや望むことを想像することができるのです。この想像はコンピューターにはで きません。コンピューターは数字や文字を扱うにすぎず、感覚を持たないのです から。

 外交官だって同じですよ。あなたの前にあるそのコンピューターは、小さなサ イズにもかかわらず、外交官の仕事の多くを取り上げてしまうことでしょう。た だ、コンピューターには、周りで起きる政治的、経済的、人間的出来事に対する 外交官の感覚まで支配することはできないのです。

 外交官は、鋭敏で知識や経験を持つ目で出来事を観察します。そしてそれを所 属機関に報告し、今後起こるであろうことについて自分の予測を伝えます。それ により、外交官は国の意思決定者に対し、事が起こる前に備え、予測される事態 に対応する政策を採る機会を確保するのです。

 あなたもご存知のとおり、日本は、世界中で日本製品をマーケティングし、製 品を多様化して、新たな商品を輸出製品リストに追加することによって成り立っ ている国です。それは若者たちに仕事のチャンスを確保し、国民の豊かな生活水 準を保ちます。

 これらの撮影機器は、海外旅行で私が見たものすべてを撮影し、私が出会った 人々や彼らが望むものについての観察を記録し、私の仕事を手伝ってくれます。

 たとえば、店頭のショーケースの撮影は、それをかつての写真と比較する時 に、消費者の嗜好のレベルやその発達を計り知る機会を与えてくれ、ショーケー スを更に充実したものにするために別の商品を追加する仕事を手助けしてくれる のです。

 お嬢さん、これこそ人の感覚の役割なのですよ。人の感覚は、時にインター ネットが告げる前に私たちに語りかけてくれるのです。」

 こうして時間は真夜中に近づきました。友人と、そして慎ましやかな微笑みで 私たちの話を聞き、時々留意点があるとそれを紙に書き留めていた2人の同伴者 は、そこでいとまごいをし、「さようなら」と言いながら、日本式のおじぎで私 たちに別れを告げたのでした。


ジッダにて―ヒジュラ暦1427年サファル月10日


筆者:モハンマド バシール クルディー
前駐日サウジアラビア大使       

(2007年12月18日更新)

                

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