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筆者:片桐早織
アラブ イスラーム学院司書
日本から見ればとても遠い印象のある中近東ですが、意外に数多くのアラビア語やペルシア語起源の言葉がなじみのある日本語として既に使われています。奈良・平安時代は主にペルシア語起源の言葉が中国語(漢語)を通して、安土桃山時代以降は、ポルトガル語やスペイン語、オランダ語を通して、そして明治以降には英語やフランス語を通して、沢山の「中東語」が日本語に入ってきました。古い時代ほど当て字に音と意味を写し取ろうとした努力の跡が偲ばれますね。
化学関係の言葉
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アニリン(無色有毒の油状液体) ← aniline(英語) ←
الأنلين(アルアニリン) |
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アルカリ ← alkali(オランダ語) ←
القلو(アル・キルウ「海草の灰」) |
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アルデヒド(脱水素されたアルコール) ← aldehyde(英語) ←
الألديهيد(アル・アルデーヒード) |
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アルコール ← alcohol(オランダ語) ←
الكحل(アル・コホル)
コホルはアラブの黒いアイライン。コフルにはアンチモンを使ったので、アンチモンが語源でもある。もとは「最も敏感なもの」の意味。
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サッカリン ← saccharin(英語) ←
سكري(ソッカリ) ソッカル(砂糖)から派生した「砂糖のようなもの」の意味。 |
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シャボン(石鹸) ← sabão(ポルトガル語)/jabón(スペイン語) ←
صابون(サーボーン) |
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曹達(ソーダ) ← soda(オランダ語) ←
صودا(スダーゥ) |
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ナトリウム ← natrium(ドイツ語) ←
صوديوم(スードゥーム) |
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ナトロン ← natron(ドイツ語) ←
النطرون(アッナトローン) |
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ベンジン ← benzine(英語) ←
بنزين(ベンズィーン) |
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密陀僧(みつだそう/一酸化鉛) ← 中国語 ← murdāsang(中世ペルシア語) |
医学・薬学の言葉
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安息香(あんそくこう/呼吸刺激剤として用いる) ← 中国語 ← arshak 中世ペルシア語(パルティア最初の王アウサケスの名から) |
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ガーゼ ← gaze(ドイツ語) ← الغزي(アル・ガッズィ) |
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カンフル(カンフル剤・樟脳) ← kampher(オランダ語) ← كافور(カーフール) |
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ギブス・ギプス ← gips(ドイツ語) ← جبس(ジブス:石膏) |
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センナ(健胃剤・下剤として用いる) ← senna(ラテン語) ← سنا(サナー) |
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答満林度(タマリンド/緩下剤に用いる) ← tamarinde(オランダ語) ← تمر هندي(タムル・ヒンディ) |
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マッサージ ← massage(英語) ← مس(マッサ「触れる」から) |
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蘭引(ランビキ/酒類・医薬用の蒸留機具) ← alambique(ポルトガル語) ← الإنبيق (アル・インビーク) |
天文学関係の言葉
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以須太良比(イスタラビ/天文観測機) ← asrtolabio(ポルトガル語) ← أسطرلاب(アストロラーベ) |
食品に関する言葉
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映日果/無花果(いちじく) ← anjīr(中世ペルシア語) |
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オレンジ ← orenge(英語) ← nārang(中世ペルシア語「黄金」、サンスクリット語起源) |
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キャンディ ← candy(英語) ← قند(カンド「砂糖菓子」。サンスクリット語起源) |
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珈琲(コーヒー) ← koffie(オランダ語) ← قهوة(カフワ) |
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シャーベット ← sherbet(英語) ← شربة(シャルバット「飲み物」) |
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舎利別(セロープ/シロップ) ← siroop(オランダ語) ← شراب(シャラーブ「飲み物」) |
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ツナ ← tuna(英語) ← تون(トゥーン) |
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巴旦杏(はたんきょう/アーモンド) ← bādām(中世ペルシア語) |
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ピラフ ← pilaf(フランス語) ← pilāw(中世ペルシア語「飯」) |
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葡萄(ぶどう) ← bātak(中世ペルシア語) |
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檸檬(レモン) ← lemon(英語) ← ليمون (ライムーン) |
衣服に関する言葉
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キャラコ ← calico(英語) كاليكو(キャーリーコー:インドのカリカットの地名から) |
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コットン ← cotton(英語) ← قطن(コトン) |
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サテン ← satin(英語)/satijn(オランダ語) ← ساتان(サーターン) |
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襦袢(ジバン・ジュバン) ← gibão(ポルトガル語) ← جبة(ジュッバ「上着」) |
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シフォン ← chiffon(英語・ドイツ語) ← سيفون(シフォーン) |
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ショール ← shawl(英語) ← شال(シャール:ペルシア語起源) |
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タフタ ← tafferts(フランス語) ← tāfta(中世ペルシア語「織物」) |
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ダマスク織 ← damask(英語) ← دمشق(ディマシュク :シリアのダマスカスの地名から) |
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パジャマ ← pajamas ← pajama(中世ペルシア語 「ズボン」) |
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ブラウス ← blouse(英語) ← bluse(ドイツ語) ← بلورة (ブルーラ) |
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毛斯綸(モスリン) ← mislin(英語) ← musseline(ドイツ語) ← موصلين (モースリーン:イラクのモスルの地名から。) |
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モヘア ← mohair(英語・ドイツ語) ← موخير (ムハィヤル) |
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ヤッケ ← jacke(ドイツ語) ← جاكيت (ジャーキート「上着」) |
船舶関係の言葉
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ケーブル ← cable(英語) ← كبل(カブル) |
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ゴンドラ ← gondola(イタリア語) ← غندول(ゴンドゥール) |
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ダウ(インド洋、アラビア海などの大三角帆装備の帆船) ← dhow(英語) ← دهو(ダフー) |
楽器
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タンバリン←tambourine(英語) ← طنبور(トゥンブール) |
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琵琶(びわ) ← 中国語 ← barbut(中世ペルシア語) |
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リュート ← lute(英語) ← عود(ウード、ペルシア起源) |
香(語感を重視した優美な名称が多いようです。お香もその多くがアラブの商人の手を経てもたらされました。)
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麝香(じゃこう/ムスク) ← musk ← مسك(ミスク) |
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沈香(じんこう) ← aloes wood ← عود(ウード「木」) |
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バルサム(薬用・工業用の液状樹脂) ← balsam(バルサム) ← بلسم(バルサム) |
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白檀・栴檀(びゃくたん・せんだん) ← sandal wood(サンダルウッド) ← صندل(サンダル) |
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没薬(もつやく/ミルラ) ← myrrh ← المر(アル・ムッル) مر(ムッル「苦い」) |
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龍涎香(りゅうぜんこう/アンバーグリス) ← ambergris ← عنبر(アンバル) 中世アラビア語で「匂いの王者」の意味。「―gris」は後代amber(琥珀)との混同を避けるためつけられた。
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その他
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カーキ色 ← khaki(英語) ← khākī(中世ペルシア語「土の」) |
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キャラバン ← caravan(英語) ← kārvān(中世ペルシア語) |
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キヨスク/キオスク ← kiosk(英語) ← kūshk(中世ペルシア語「園亭」) |
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サフラン ← saffraan(オランダ語) ← زعفران(ザフラーン) |
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獅子(しし) ← 中国語 ← shīr(中世ペルシア語) |
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ソファ ← sofa(英語) ← صفة(スッファ「棚」) |
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如雨露(ジョウロ) ← jarra(ポルトガル語) ← جرة(ジャッラ「瓶、壷」) |
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台風 ← typhoon(英語) ← طوفان(トゥーファーン「洪水」) |
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トタン ← tutanaga(ポルトガル語) ← tūtiyā(ぺルシア語起源) |
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バザー ← bazaar(英語) ← bāzār(中世ペルシア語) |
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ミイラ ← mummy(英語) ← مومياء(ムウミヤーゥ) |
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モンスーン ← monsoon(英語) ← موسم(モウスィム「季節」) |
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ラケット ← racket(オランダ語) ← راحة(raha「手のひら」) |
留意点
アラビア語は日本では英語を通してよりも、オランダ語、ポルトガル語、ドイツ語を通し入ったものの方が歴史が古く音価も残りやすいので、日本語引きにしてみました。
「アラビア語起源」と「ペルシア語起源」の単語は密接な関係にあり、特に古代の日本においては中世ペルシア語から最初に入って、後にアラビア語や、ヨーロッパの言葉を通して入った言葉も多いので、あえてペルシア語起源をも併記しました。
参考図書
・アフマド・Y・アルハサン,ドナルド・R・ヒル 多田 博一,原 隆一,斎藤 美津子
『イスラム技術の歴史』 平凡社 1999年
・蒲生礼一 『イスラーム』 岩波書店 1995年
・ジクリト・フンケ 高尾 利数 訳 『アラビア文化の遺産』 みすず書房 2003年 新装版
・杉田 英明 『日本人の中東発見』 東京大学出版会 1995年
・杉田 英明 『葡萄樹の見える回廊』 岩波書店 2002年
・ハワード・・ターナー 久保儀明 訳 『図説 科学で読むイスラム文化』 青土社 2001年
・前島 信次 『アラビアの医術』 中央公論社 昭和40年
・宮崎 正勝 『モノの世界史』 原書房 2002年
・矢島 文夫 『ミステリアスな文化史』 中央公論社 1994年
・山田 憲太郎 『香談 東と西』 法政大学出版局 1992年 新装版
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