サウディ青少年教育にかける熱意を実感

‐日本・サウディアラビア友好使節団に参加して‐
アラビア石油(株)駒井 昭彦  
キングサウード大学博物館を見学
キングサウード大学博物館を見学
(写真提供:中嶋 岳志氏)
 この原稿を書いている7月31日のテレビニュースで、「夏休みの出国ラッシュがピーク」という字幕とともに、海外旅行者でごった返す成田空港の様子が画面に映し出されていた。ラフな格好をした家族連れやネクタイをしめて今から出張とおぼしきビジネスマンなど、さまざまな人たちが航空会社のカウンターや売店に列をなしていたが、この中で目的地が「サウディアラビア」という人はそう多くないだろう。それどころか、自分はもちろんのこと、知り合いが「サウディアラビアに行ったことがある」という人すら少ないのではないだろうか。日本のエネルギーの相当な部分がサウディから輸入された原油で賄われているにもかかわらず、日本人のサウディやサウディ人に対する知識や理解は、その政治・経済的な関係の強さと比べてまだ十分とは言えないだろう。

 私はこのたび、そのサウディアラビアに、日本・サウディ両国政府が今年初めて実施した「日本・サウディアラビア友好使節団」の一員に加わってサウディアラビアを訪問する機会を得た。もちろん全ての旅程を限られた紙面で紹介することは無理だろうが、滞在中印象に残った場所、出来事を思いつくままに記していきたい。

 この使節団は、1997年11月訪サの橋本前総理がファハド国王・アブドッラー皇太子に提案し、98年10月訪日のアブドッラー皇太子と小渕総理間で合意された「21世紀に向けた日・サ間包括的パートナーシップ」の枠組みの中の「日・サ青年交流計画」の実施として派遣されたものである。大学講師を団長に、行政、メディア、エネルギー、芸術等、多岐にわたる分野に従事するわれわれ一行9名は、3月12日に成田空港を出発し、マニラを経由してサウディ東部のダハラン国際空港に到着し、さらに国内線に乗り換えて深夜に首都リヤードに降り立った。ダハランからは今回我々の案内役をつとめてくれたサウディ青年福祉庁のドゥハイル氏も同行し、日程の確認等を行った。サウディ政府側の受け入れ担当官庁が青年福祉庁ということもあり、学校や博物館、スポーツ施設などの教育機関が主要な訪問先となっている。翌日からさっそく使節団としての日程が始まることとなった。


キングサウード大学見学、素晴らしい施設に感心
キングサウード大学 ジェッダのスポーツセンター
キングサウード大学
(写真提供:キングサウード大学)
キングサウードスタジアム(リヤード)にて
(写真提供:中嶋 岳志氏)
 サウディ入りして最初の見学先は、リヤード市内にあるキングサウード大学だった。広大な敷地に大きな建物が点在し、構内を学生が自動車で移動している姿は、密集した建物の間を自転車でうろうろしていた自分の大学生活からは、ちょっと想像できないものだった。来客用の応接間(といってもちょっとした講堂くらいの広さがある)に通され、デーツとアラビックコーヒーを振まわれる。

 この後、ほとんどすべての訪問先で、まず始めにアラビックコーヒーが出てくることになる。ちょうど日本のしょうが湯をもう少し甘くしたような感じで、最初のうち「何だかおいしいのかまずいのかよくわからない」と思ったりしたが、慣れてくるとだんだん気に入ってきて、最後の方になると、「ここのはなかなかおいしい」などと、行った先々での違いまで楽しむようになってしまった。

 大学の広報責任者から大学の歴史、概要などを説明してもらったあと、主な施設を見学して回った。サウディ国内で1、2を争う総合大学というだけあって、図書館や附属博物館なども相当充実したものとなっている。また、ちょうど昼時だったこともあり、多くの学生がロビーのようなところに集まっておしゃべりをしたり昼食をとったりしていたが、これも屋内にありながら、「広場」と呼んでもいいような大きさだ。

 そしてこの大学で学ぶ学生の授業料は全て無料とのことだった。このキングサウード大学に限らずサウディの大学はすべて入学金も授業料も必要ない。もちろん世界一の産出量を誇る石油からの莫大な収入があればこそできることなのだろうが、それにしてもサウディの教育にかける意気込みは相当なものだと感じさせられた。


教育関係者の熱意と誇り
青年福祉庁にて
青年福祉庁にて
(写真提供:中嶋 岳志氏)
 キングサウード大学で感じた教育への取り組みの熱心さとは、その翌日に青年福祉庁を訪問し、同庁のナーセル次官とマンスール社会活動局長に面会した時に裏づけられることとなった。席上でナーセル次官が、「サウディは現在人口に占める青少年層の割合が非常に高く、この青少年をどのように育てていくかはこの国の将来を左右するきわめて重要なテーマとなっている。自分たちはその青少年育成という重要な仕事に直接関わっており、強い責任を感じている」といったことを述べられたのだった。

 それを受けるようにしてマンスール局長が「サウディでは教育の一環としてスポーツにも非常に力を入れている。ぜひそういった施設やそこで練習に励んでいるサウディの若者たちを見ていってほしい」旨付け加えられた。確かにサウディは日本とは反対に、人口の6割以上が25歳以下という「若年化社会」となっている。日本で高齢者に対する社会政策が大きな関心を持たれているのと同じように、ここでは若者に対する社会福祉、教育政策に強い関心が持たれているようであった。

 また、この日は在リヤード日本大使館の上村参事官が自宅で夕食会を開いて下さった。アラビア語が堪能であり、かつ政治から文化に至るまで非常に幅広い教養を感じさせる参事官のお話はとても興味深く、時間がたつのも忘れてしまうほどであった。

 中でも印象深かったのは、リヤード地区に在留している日本人はおよそ200人強というお話をされた時に出席者の一人が、思ったより多いですねと言ったところ、「自分は必ずしも多いとは思っていない。日本がこれだけサウディから原油を輸入し、サウディ国内にこれだけ日本車や日本の電気製品があふれ返っていることを考えると、もっともっとサウディに在留したり、サウディを訪問したりする日本人は増えてもいいのではないだろうか」と語っておられたことだ。

 確かに日本とサウディの経済的結びつきは自分たちが日常感じているよりはるかに強いようだ。これだけの関係基盤があるのだから、原油か自動車といった「モノ」だけではなく「人」のつながりも強くすることは十分可能だろうし、またそうすることによって両国の関係はより完成されたものに近づくだろうと考えたりした。


活気あふれるジェッダ
歓迎昼食会(ジェッダにて) ジェッダのスポーツセンター
歓迎昼食会(ジェッダにて)
(写真提供:中嶋 岳志氏)
ジェッダのスポーツセンター
(写真提供:キングファハドコスタルティー)
 ほぼ3日間のリヤード滞在のあと、次の目的地ジェッダに向かった、リヤード・ジェッダはともにサウディを代表する都市だが、街の印象は大きく異なっていた。リヤードは政府関係が集中していることもあって、どちらかというと大きな道路と近代的な高層ビルの印象が強い静かな町だが、ジェッダはリヤードよりも人の多さとにぎやかさを感じさせ、街に活気があふれている。特にハッジ(巡礼)のシーズンということもあって、一目見て外国人とわかる人たちも多く、ビルや道路よりとにかく行き交う人々の姿がまず目につく。

 ここでもジェッダ市が運営するスポーツクラブを見学したが、いわゆる市営運動場といったイメージとはかけ離れている。プールやグラウンドはもちろんのこと、トレーニングセンターや体育館、ボウリング場や立派なレストラン、宿舎などが完備し、一堂に集まっている。中でもサウディの国技といえるサッカーはやはり力を入れており、ナイター設備のあるグラウンドがいくつも並んでいる。このクラブに入会する少年たちも大部分がサッカーを希望するとのことだった。クラブを案内してくれた人に、「サウディでサッカーの次に人気のあるスポーツは何ですか」と尋ねると、ニヤッと笑って「二番目はサッカーで三番目はサッカーだ」と答えてくれた。

 ジェッダでは古くからあるスーク(市場)をぶらぶら回ったりもしてちょっとした観光気分も味わった。夕暮れ時にお祈りの時間が来たことを告げるアザーンの朗々とした声が流れると、イスラム教徒でない自分までも、神聖、というほどではないが何となくしんみりした気分になり、街がしばらくの間静まりかえっていくのが感じられたりもした。

 ジェッダでも総領事邸で夕食会を開いて下さり、総領事を始め館員の方々がサウディでのさまざまな経験や苦労話などを気さくに語って下さった。


期待される日・サ青年交流の発展
 ジェッダでの4日間もあっという間に過ぎ去り、そろそろサウディの街並みや人々に目が慣れてきたかなという時には帰国ということになってしまった。もちろん一週間の滞在でサウディがわかった等という気は毛頭ないし、自分なりのサウディ観が形成されたというほどでもない。また、第一回の派遣ということもあって、まだお互いに手探りですすめていったところもあるかもしれない。

 しかし、観光ビザの発給がなく、まだまだ限られた人たちしかその姿を知らないサウディアラビアを、研究者や行政・メディア、エネルギーなどさまざまな分野に携わる人たちが一緒なって訪問し、率直な感想や、それぞれの観点からの考えを話し合うことが出来たのはなかなか得がたい経験だった。このようなプログラムが継続されることによって、サウディという国が「自分に関係ある場所」という意識を持つ人は確実に増えていくのだろう。

 最後になったが、この派遣事業実施にあたって忙しい中を直前まで奔走して下さった外務省及び中東調査会の方々、サウディ到着から出国までお世話になった大使館、総領事館の方々、タイトなスケジュールの最後まで笑顔を絶やさず面倒を見て下さったドゥハイルさん、どこに行っても歓迎してくれたサウディの人々、そして何よりこの訪問を楽しいものにしてくれた使節団のメンバーの全ての人に心から感謝の気持ちを伝えたいと思う。本当にありがとうございました。



(※役職名等は、すべて当時のものです)
転載:「日本サウディアラビア協会報」
No.202 August 1999

(2007年3月30日更新)













日本語トップ | リンクについて | サイトマップ | ヘルプ



2007年 アラブ イスラーム学院