その−1 アラビアの砂漠はアラビアのらくだで渡れ
長年暑い砂漠の中で暮らしていると、ちょっとした距離でも車での移動が多く運動不足になりがちです。そのためか、腰痛とひざ痛が起こり病院で治療をうける羽目になりました。
当地はイスラム社会、したがって、女性の顔を見る事はめったにありません。しかし、病院で働いているエジプト人やシリア人の看護婦サンはベールのかわりに白いスカーフをかぶっているだけなので顔を見ることができます。
彼女たちの美しい笑顔をあてにして整形外科に行くと、この看護婦サンは白衣に黒いベールをかぶっており、目しか見えませんでした。が、それでも失望しなかったのはそのアンバランスがやけに映えて魅力的に見えたからでしょうね。
アラビア語で「こんにちは」とあいさつをしてもツンとして答えてくれなかったから、きっと地元の厳格なイスラム家庭で育ったお嬢さんだからでしょう。
ともあれ、エジプト人のお医者サンとますアラブ流に長々と挨拶をかわし、病状を説明しました。だが、私の英語がつたなかったのか、あまり理解してもらえなかったようです。
そこで、日本では、ハリとか、指圧とかカイロプラクティックに通って、かくかくしかじかの治療を受けたといいますと彼は、「大丈夫、『アラビアの砂漠はアラビアのらくだで渡れ』との諺がある。
ここでは私に任せてください」とニヤリと笑って後ろを指差しました。そこには最新鋭の医療機器が並んでいました。聞けばドイツから輸入したものだそうで、その機器で治療を受けて一週間で痛みは去りました。なるほど、「アラビアの砂漠はベンツ〔ドイツ車〕で渡れ」ですかねぇ。
これと同じようなことわざに『シリアの羊はシリアの犬で追え』というのがあります。お分かりのように「郷に入らば郷に従え」の喩えです。
その−2 噛み付いてはいけない相手には、手にキスをしてこの手が折れろと祈れ
仕事上、いろいろな人に会います。相手が私のオフィスにくることもあれば、相手のオフィスを訪ねることもあります。アラブでは仕事の話に入る前にまず、シャイ〔お茶〕を飲みながら長々と雑談を交わします。ご多分にもれず、よもやま話の内容は人の悪口にもおよびます。
あるアラブ人部長のオフィスでのことです。彼はA氏の悪口を散々ならべたて、私の印象ではこの二人が顔をあわせたら刃傷沙汰になるのではないか、と思われるくらい激しい口調でした。
しばらくして、スーパーマーケットでこの二人が肩をだきあってアラブ流に頬にキスをして挨拶をする光景を目撃しました。私も目があってしまったのでこのお二方に握手をしましたが、先日の事もあってなんとも割り切れない気分でした。
翌日、用があって彼を訪ねましたが、お茶を飲みながら、なぜそんなに嫌っている相手に親しげにするのか、私のみならず日本人には理解できないと理由を尋ねたところ、彼は大笑いして、
「私たちは嫌な奴でもたえず笑顔で接する。A氏は大嫌いだが私の仕事や、付き合いの上で必要な人間なのだ。だから、そうするのだ。ただし、(たとえだが)右手で握手をしてもポケットの中の左手はナイフを握って用心しているのさ。それとも日本人は嫌な奴はすぐ(日本)刀で殺っちゃうのかね」
まぁ、きつい冗談でしたがアラブのことわざでは『噛み付いてはいけない相手には、手にキスをしてこの手が折れろと祈れ』とあります。数年前にテレビのニュースでアラファト議長がいともにこやかにイスラエルのネタニヤフ首相(当時)と握手している場面がありましたが、ネタニヤフ氏の苦虫をかみつぶしたような顔が印象的でした。それにもまして、そばのクリントン大統領(当時)の演技力に欠けた見え見えの愛想笑いはいただけませんでした。
ほかの諺では『犬のような奴でもご機嫌いかがと挨拶せよ』また逆の立場から言ったものでは『ライオンが歯を見せても微笑みと誤解するな』とありますから、アラブの社会では諺を日常的に実行しているのですね。
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